39歳で上場、二度の起業、三人の出産 起業家・経沢香保子は何者かになれたのか?:前編

39歳で上場、二度の起業、三人の出産 起業家・経沢香保子は何者かになれたのか?:前編

turning point「全財産を投じても…」病気の娘の退院日に初めて知ったこと

――経沢さんにとって特に転機になった出来事はどんなことですか?

やっぱり最初の子どもが病気だっていうことが妊娠中にわかったときですね。妊娠5カ月目くらいで、先生にお腹の子が育ってないって言われて。当時の自分は、会社もまあまあうまくいってて、結婚もして第一子出産を控えてて、いわゆる幸せの絶頂時期だと思っていたんです。それがその日のうちに紹介状を書かれて慶応病院に搬送されて検査して、子どもが病気ですって言われて。もう全部わからなくなって、病院の廊下で「人生どうすればいいんだろう」とすごく考えました。

――想像もしなかったことですもんね。

まわりの人に産むのを反対されたし、先生からは死産になるかもとも言われて。でも自分ができることは、最後までその子と付き合うということだったので、どんな形でもできることをやろうと思いました。そのあとその子はなんとか生まれてきたんです。でも生まれたときは1500gぐらいで、ずっとNICU(新生児集中治療室)に入っていて管につながれた状態。私も仕事をしながら病院に通う生活をしていました。

NICUは一泊85,000円するし、1回400万円くらいの手術も2回くらいしてて、それでも私は全財産を投じてでも医療を受けさせたいと思っていました。でも退院するときに請求されたのがおむつ代だけだったんです。何もできない娘のために、何千万も税金で賄ってもらっていた。娘が退院する日に初めて知ったことでした。それが自分の転機というか、頑張って事業してたくさん納税したり、社会のためになることをしようと思ったきっかけです。

――なるほど…。

一度目の起業では上場というわかりやすいひとつの目標があって、それにみんながついてきてくれた。二度目の起業では社会のためになるような育児の新しい文化を作りたいっていう思いでやっていて、それに対して本当にたくさんの人が共感してくれてるなと思っています。

 

originシッター代だけで月100万円、キッズライン創業の原点

――経沢さんはそのあと二人目三人目とお子さんが生まれて。

二人目は、長女を生んだ次の年に長男が生まれて。三人目は35歳のときに娘が。二人目の子どもが生まれたときは、長女とは違う意味で本当に大変でしたね。長女のときは在宅でのケアが中心だったんですけど、長男が生まれてからは朝保育園に連れて行ったりとか、夜会食があるときはお迎えに行って母親にバトンタッチしたりとか。とにかく育児と仕事の両立っていうのは、自分にとってはベビーシッターさんがいなかったらできなかったと思います。

――その経験をもとにキッズラインを作られたということですね。

そうですね。当時のベビーシッターさんってすごく高くて、富裕層の人しか使わないっていうイメージだったんですよね。入会金10万円とか、使うかわからないけど月会費も払って、時給3,000円とか4,000円とかで。自分は経営の道をとったので生活は赤字でもいいと覚悟していたんですが、ベビーシッター代だけでも月100万円近く使ってるときもあって、これでは使い続けるのは大変だなと思いました。

それで、自分でネットの掲示板で探すようにしたらたくさんの応募があったんです。履歴書や経歴書を持ってきてもらって面接して、良かった人を家に来てもらい子供との相性をお試し保育していただいて、シフトに組んでいってというやり方にしたら、費用は抑えられるようになりました。でもここまでやるのは本当に大変だと思って、いつかトレンダーズで成功したら、次はベビーシッターさんを気軽に探せるようなプラットフォームを作りたいっていうのがキッズラインの原点にあります。

――キッズラインの事業はすぐ安定したんでしょうか?

全然で! 時給1,000円からシッターさん呼べるって、自分にとっては画期的なサービスだと思ったんですけど、なかなか最初は広まらなくてずっとずっと赤字でした。それこそオンラインサロンやったりテレビ出たりして得た収入を会社につぎ込んでました。それでもどんどんお金がなくなっていく日々でした。

でもある時に、「女性による女性のためのサービスだと社会に広まらないのではないか?」と仮説を立ててみたんです。シッター代を払うのは誰だろうと。それであるビジネスプランコンテストに応募して、男性経営者の皆さんに向けてプレゼンをしたら優勝して、申し込みが増えました。経営者の男性は悩んでいたんだと思います。優秀な女性が出産を機に当時は7割も辞めていくような時代でしたから。そして、家族の中でも奥さんに使ってもらうことで家庭が平和になったり子供が喜んだり、そんな流れで、決済者である男性が推してくださって、企業が女性社員の福利厚生として使うっていうムーブメントが始まってから、売上が徐々に上がっていきました。

 

仕事に私生活に波乱万丈とも言える経沢さんの人生。後編では、働く女性が気になるあれこれの疑問に答えていただきました。近日公開です!

☆後編はこちら

■キッズライン公式サイト
https://kidsline.me/

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