「自分が死んでも残る事業を作る」臨月に起業した株式会社SEAM代表・石根友理恵の後悔しない生き方

「自分が死んでも残る事業を作る」臨月に起業した株式会社SEAM代表・石根友理恵の後悔しない生き方

 

turning point父の死、妊娠…後悔しない人生を歩む決意

――では起業に至るまでの経緯を教えてください。

私、2017年に子どもを授かりまして。それまでは本当にワーカホリックに働いていたんですけど、妊娠して体がしんどくなって、初めて「仕事をセーブしたいな、しばらくやめたいな」って思ったんです。仕事ほど楽しいことはないとまで思っていた私ですらそんなふうに思うんだったら、これって世の中の女性もみんな同じ気持ちなんじゃないかと気付いて。だとするとこれって社会課題とも言えますよね。

だったら自分自身の人生でライフイベントもキャリアも築いて、私がロールモデルになってみようと思い、臨月のときに会社を立ち上げました。ただそこから何の事業をやろうかを考えて、子育てにも追われていたので、お酒の事業を始めたのは会社設立から4年後の2021年でした。

――そのときに低アルコール飲料に目をつけたきっかけは?

二つあって。まず定量的な部分では、コロナ禍になって消費者のお酒の捉え方がかなり変わってきて、飲み方の多様化がすごく進んだんですね。昔はビールで乾杯が当たり前で、一気飲みの文化みたいなものがありましたが、今の20代から30代前半の方はそんな飲み方しないんですよ。最近厚生労働省が初めてお酒の飲み方についてのガイドラインを出したんですが(※)、世の中がSDGsやウェルネスの方向へ向かっていて、安心安全なお酒の飲み方が重要視されてきている。国内外問わずノンアルコール飲料や度数が低くて飲みやすいものの市場がとにかく伸びているので、この先10年くらいでお酒業界は変わってくると思ったのがひとつのきっかけです。

※…2024年2月に厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表。それを受けてアサヒビール・サッポロビールはストロング系と呼ばれるアルコール度数の高い製品の販売から撤退することを表明するなどして話題に。

――たしかに、この数年でお酒に対するイメージがすごく変わっている気がします。

低アルコールのブランド認知は「ほろよい」(サントリー)の一強なんですが、実は各社いろいろな商品を出していて、ただブランドが定着していないように考えていました。というのも、ノンアルコールはわかりやすくアルコール度数0%なんですけど、低アルコールって市場の定義がないんですね。昔からアルコール度数3、4%の商品は販売されているし、消費者にとって飲むタイミングもあるのに、市場が顕在化していない。だから我々は、デジタルチャネルでこれから消費のメインになっていく20代30代の層にブランドとして認知を築いていくのが、スタートアップとしてやるべきことじゃないかと考えています。

「お酒のEC化率は市場全体の3%しかないんです。皆さん店頭で買われることがほとんど。さらに大手さんだと100円台から買えるような商品が出ている中で、どうやってECで高単価のお酒を買ってもらうかは日々悩んでいます」

もうひとつ、この事業を始めた思いの部分で言うと、2014年に父が亡くなったんですが、その一因がアルコール依存症だったんです。その一方で私もお酒が大好きで、お酒は人と人とのコミュニケーションを円滑にするためのツールだと思っていますし、お祝いの席に必ずある幸せの象徴でした。父にとってどうかはわからないですが、私はお酒は人を幸せにする最高の嗜好品だと思っています。そういうお酒の本来のいいところを享受しながら、より安心・安全に飲む方法ってなんだろうと考えた結果、商品を作ってしまおうと決めたのが2021年の頃でした。

――お父さんの死が大きな転機になっているんですね。

そうですね。今の事業に直結しているという部分でも大きいのですが、本当に突然亡くなったんですよ。その時に初めて、人間って本当に死ぬんだと思いました。

私たちも、もしかしたら明日死ぬかもしれないじゃないですか。事故に遭うかもしれないし、心臓麻痺になるかもしれない。だったら毎日後悔しない人生を歩もうと思って。失敗するかもしれないし、すごく貧乏になるかもしれないけど、後悔だけはしない人生を歩みたいと思いました。そこから「じゃあ、私はこの先何がしたいんだろう?」と考えて、起業して自分が死んでも残る事業と組織を残そうと決めて動き出したきっかけになりました。父が亡くなったことで、良くも悪くも人生変わったなと思いますね。

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