2023年、日本のテーラー業界で初めてパリコレに出展したオーダーメイドスーツブランド「Re.muse」。その代表であり、YouTubeをはじめとするSNSのショート動画がバズっている、勝友美さんにお話をお伺いしました。自信とは、仕事とは、未来とは…大ボリュームのインタビューです!
【勝友美プロフィール】
年齢:38歳/職業:株式会社muse代表取締役
insta @katsu.tomomi
YouTube @katsutomomi-victory
TikTok @katsu_tomomi
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historyスーツを着ると「こんなに大事にされる」
――まず、勝さんのこれまでの経歴をお伺いできますか?
もともとファッションが大好きだったので、短大卒業後はアパレル販売員になりました。ありがたいことに、入社初日にすぐトップセールスになることができて、4年ほど働いてヘッドハンティングを受けまして、次は海外のポータルサイトの立ち上げにスタイリストとして入らせていただいたんですけど、そのときに父が癌になり他界したんですね。それをきっかけに一旦仕事を辞めました。
――そこでのブランクはどのくらいだったんですか?
2、3ヶ月はあったと思うんですけど…そのときにいろいろやる気がなくなってしまって。人って仕事のやりがいを探すことに時間がかかると思うんですけど、私の場合は最初からすごくやりがいを感じていて、正直アパレルのお給料はめちゃくちゃ安かったんですけど、とにかく毎日が充実してたんです。それが父の他界をきっかけに、やりがいよりもただ生きるために働かないといけないから、家から近くて50円でも時給の高いところで求人を見漁るようになって。でもそんな感じだから面接に行っても落ちまくるんですよ。
それで受かったのが歯医者さんの受付なんですけど、そこでちょっとしたカルチャーショックがあったんです。アパレルのときはみんなファッションが大好きで、日々達成の目標に向かってキラキラ働いてたんですけど、やりがいを無視して働きに行った職場ってそうじゃなかった。皆さん一分一秒でも早く帰りたいし、休憩のときの会話も否定的なものばかりで。職場って人生の中で一番長いときを過ごすはずなのに「これはあかん」と思って、1日で辞めたんですね。これまでやりがいがどれだけかけがえのないものかっていうのを気付かず走ってきて、自分にとってファッションは好きなものというだけじゃなくて、自分の人生をちゃんと生きる実感を得るためのひとつのツールだったんだっていうのを改めて思ったんですよね。
――そこでまたファッション業界に。
そのときにオーダースーツの販売員募集が目に留まって、面接を受けに行こうと思ったんです。今振り返ると運命やなって思ってて。
――オーダーメイドのスーツって、あまり女性には馴染みがない印象ですよね。
そうですね。当時は男性のお客様がほとんどで、レディースのスーツも一応あるけど、お客様は半年に一人来るか来ないか。当然女性がテーラーになるっていう職業選択自体なかったので、完全に男性社会で。
――勝さん自身、普段からスーツを着る機会はあったのでしょうか?
その時はスーツ全然好きじゃなくて(笑)。ただ実際にオーダーメイドスーツを着ることで、何を着るよりも「こんなに大事にされるんだ」っていうのを知ったんですよね。それまでのスーツってリクルートスーツのように野暮ったく地味で、自分っていう人間がわかりにくくなるようなものしか販売してなくて。でも世界にはもっとたくさん個性を証明できるカラフルな生地があるし、それを見たら女性は心躍るだろうし、さらにはビジネスシーンで相手に対して敬意を払うこともできる。ワンピースにカーディガンを羽織って女性らしくいるよりも、視座の高さや覚悟の違いが現れるんですよね。今後、女性がどんどん活躍していく世の中になるにあたって、レディースオーダーメイドスーツっていう世界に私がイノベーションを起こそうと思いました。
turning pointビジネス=誰にどんな未来を届けるか
――スーツ業界に入ったのはおいくつのときだったのでしょう。
25歳のときですね。
――そこから起業するに至ったきっかけは?
オーダーメイドスーツって目的買いで、何かしらを変えたいとか、より良くしたりとか、必要性があってわざわざ予約を取って、一緒に目的地までたどり着く経路を作っていく、とても奥が深い仕事なんだろうなっていう気持ちで入ったんですけど、全然そうじゃなくて。
当時ファストファッションが一気に広がっていった時期で、とにかく高いものが売れなくなっていたんです。わざわざ良質なものを、ゆっくり時間をとってお金をかけて作るっていう文化がもう古いって言われ始めていました。売れないから価格を下げて、でもそうすると回転率を上げないと利益が残らない、回転率を上げるとお客様とじっくり対話してる時間がなくなる。そういうあり方を見て、この業界ってファストファッションが流行りだしたから廃れたんじゃなくて、やるべきことをやってないから廃れたんだっていうことを感じたんです。結局ビジネスって誰にどんな未来を届けるかでしかなくて。単にスーツが欲しいんだったら、既製服でいいんですよ。そうじゃなくて、より良い未来が欲しいと思って来ているわけであって、それをお届けしていなければお客様は来ない。お客様離れを起こしているのは、この業界がやるべきことやってないからだって思ったんですね。
――「誰にどんな未来を届けるか」…なるほど。
工場に行ってその気持ちはもっと強くなりました。生地を切り続けて40年とか、毎日ボタンだけをつけ続けて20年とかっていう職人さんたちに出会って、感動してしまったんですよね。そこには想いしかなかったんですよ。ボタンを付けているおばちゃんに、「何を考えて毎日ボタンつけているんですか?」って聞いたら「この服をどんな人が着るんやろうって、着る人のこと考えてつけてるんやで」って言われて。それを聞いたときに、この温度を冷ますことなくお客様に届けるのが私達店頭の人間の仕事なはずなのに、何をやってるんだろうと思って。この職人さんたちの技術を絶やしてはいけないし、心を無碍にしてはいけないし、適正な工賃を払うべきだし、適正な工賃を払うためには適正な価格で販売するべきだし。スーツ屋がどんどん潰れてる時代で2、 30万円するスーツを売ることがどれだけ難しいかはわかっていたんですけど、だけどそれをしなかったら結局誰も幸せではない。業界全体が幸せじゃないからお客様も幸せにできないと感じて、独立を志しました。