株式会社arca CEO・辻愛沙子 「なんで」を貫きぶち抜く強さ

株式会社arca CEO・辻愛沙子 「なんで」を貫きぶち抜く強さ

 

turning point予想だにしない体験に出くわしたい

――これまで転機になった出来事を挙げるとしたら、どんなことでしょう?

いくつかターニングポイントがあって。中学2年生のときに、幼稚園から通ってた一貫校を自主退学して海外に出たんです。全く違う環境を見てみたいと思って、両親を説得して単身留学しました。そこでは多人種、多言語、多文化、多宗教、ジェンダーもセクシャリティーも多様な環境だったんですね。寮生活だったので、ルームメイトが朝起きてお祈りをしていたりとか。全然違う文化圏で暮らしてる子と一緒に生活していたので、自分と他人は違うという前提に立って相手に向き合ったり寄り添ったりする、“自他の境界線”“他者への想像力”を学んだように思います。自分とは違うアイデンティティやルーツを持っている人が世の中には沢山存在しているということや、自分が当たり前だと思っていることが誰かにとっては初めてのことだったりするように、自分の価値観を絶対的なものだと思ってはいけないということを、大人になる前に身をもって感じられる環境に身を置けたのは良かったな思います。自分にとっての最初の価値観のターニングポイントですね。

「女だから男だから日本人だからって決めつけようがないぐらいみんな違う。一緒だから違いを見つけようとして決めつけたりすると思うけど、全員違うのでその感覚がなかった」

その次が、さっきも話した牧野さんに出会った20、21歳くらいですかね。牧野さんはマイクロマネジメントをしない、所謂支援型の上司だったんですけど、私にとってはそれがすごい居心地が良くて。聞いたら教えてくれるしサポートしてくれるけど、過干渉せずやりたいことを尊重してくれる人。何かあったらまず相談するメンターであり、尊敬するクリエイターでもある、心強い上司でした。牧野さんに出会えてなかったら今のキャリアはないと思ってます。

3つ目の転機が独立だと思います。2019年にLadyknowsを作って、子会社を作って、news zeroに出始めて、その翌年にコロナが来て、親会社から独立して。この1年くらいにいろいろなことが集中しているので、大きな節目でしたね。

――辻さんはアウトプットする場面が多いと思うんですけど、インプットはどうしてますか?

ニュースは新聞やwebメディアなどのテキストもめちゃくちゃ読みますけど、動画やラジオでながら聞きしたりもします。朝ご飯作りながらとか。インプットの時間を取るぞってよりは、日常のあちこちで常に情報が身近にあるようなイメージですかね。クリエイティブの仕事でいうと、ゼロから何か湧き上がってきて生み出すというより、「いつか見たあの映画のあのシーンのライティングがすごく美しかった」みたいなことをひとつずつスルーせず、できる限り記憶に残していったりメモする習慣をつけていて、いざアイディアを練るときにそのストックの引き出しを開いて参考にしてみる、というようなことが多いです。それも役立つための情報を探してインプットするというわけではなくて、空綺麗だなとか、移動中にあの看板素敵って思って写真撮ってたりとか、いろんなとこで摂取している感じです。アンテナを張ると、意外と日常に美しいものや面白いものって溢れてるんですよ。

ただ、年々アウトプットの物量が増えていくので、あえてインプットも意識しないといけないなとは最近思い始めめていて。中学生で海外に出たときみたいな、予想だにしてないようなものに出くわすことが減ってる気がするんです。全く違う環境に行くとか、そういうことは人生のどこかでもう1回転機として作らなきゃいけないなって思っていますね。

 

life style自分にとっての美意識と力強さを両立させる

――これまでお仕事の話を伺ってきましたが、この先の結婚やパートナーシップなどのプランはありますか?

今はパートナーがいるので、もしかしたら結婚することもあるのかもというくらいで、結婚“しなきゃ”という気持ちも“したくない”という気持ちも特にないですね。結婚を人生のメインイベントやゴールとして考えるようなところはあまりないかもしれません。ただ、もし結婚することがあるとしたら、名字に関しては思うところがあって。選択的夫婦別姓が認められていない今の日本で自分が名字を変える選択肢は私の中にはないので、事実婚やお相手の改姓も含め話し合って決めたいなと思っています。

子どもは正直全然イメージできなくて。子ども欲しいとは思いますけど、パートナーと50対50の確率でどちらかが妊娠します、というものではないじゃないですか。100%自分が妊娠する側なので。これだけ仕事が好きで、やりたいことがいっぱいあるのがわかっているので、どんなに好きな人がお相手だとしても「アンフェアだ」ってどこかで思ってしまいそうな自分がいるのが嫌なんです。

ただ、最近感覚が変わってきました。一緒に会社をやってるメンバーに子どもが生まれて。何か手伝えることはないか、保育園どうするか、仕事のサポートどうするか、と考えたときに、あまりにも知らないことが多いことに気がついて、子育てしてる人のVlogを見て勉強し始めたんです。実際に子育てをしている人たちの話を身近にたくさん耳にするようになって、理詰めで子育ては何がしんどくてどんなリスクがあってこういうメリットがあって、とかっていうより、シンプルに「子どもっていいな」って人生で初めて思うようになった今日この頃です。キャリアもあるから、今すぐっていうイメージはできないですけどね。

ちなみに会社メンバーのお子さんは、今1歳半になったそう。「私もVlog見て勉強しているので、今離乳食に詳しくなってきました(笑)」

――今後の目標はありますか?

あまり逆算で人生を作っていかない直感野性型なので、たぶん戦略的にこれを先にやっておきましょうっていうタイプじゃないと思っていて。その時々にできることを頑張るっていう泥臭い感じなんです、昔から。ただ、ここまでそう思って走り続けて今ようやくキャリアも8年目になって、ここからの2、3年ぐらいが転機になるんだろうなって思いながら最近は仕事をしています。そういう地上目線でのプレーヤー的な仕事の仕方から、先に絵を描いて皆で進んでいく経営目線にちょっとずつ考え方が変わり始めている過程なので、きっと半年後はまた見えているものや目指していきたい方向性が変わっていたりするんだろうと思っています。

ただ共通しているのは、先が見える打ち手にあんまりわくわくを感じないので、やるべきことや先々の絵は描いていきながらも、「今これをやりたい」というその時々のアイディアを大事にし続けて、それを実現する技術や組織をどんどんアップデートしていけたらと思っています。人生で一個でも面白いもの、課題を解決するアウトプットを作って、気づいたらこれまで本当に色んなものを生み出してきたね〜っておばあちゃんになって振り返る日がきたらいいなと思っています。

――最後に、日々大切にしている考え方を教えてください。

「Classy and Punks」という言葉で。品とパンクさ、そのままなんですけど、生きていく上で大事にしている2つの姿勢です。
社会課題に向き合うっていうのも、こうあるべきとか正しいことが好きだからやっている感覚は全然なくて。正義感みたいな言葉もなんだか偉そうでそんなに好きじゃないんです。でも、誰かが傷ついている状況で“自分は関係ないから”と見て見ぬ振りをしないとか、「おかしいな」と思ったことをなあなあにしないということは、生きていく上での姿勢や美意識として大事にしたいと思っていて。自分にとっての軸や哲学とか美意識がある生き方に、品や知性を感じるんです。そういう意味での品を大事にしていきたい。その上で、固定観念にしばられず、権威にも臆さず、「なんで」と違和感を覚えた時にそれを変えていける力、ぶち抜いていく強さみたいなものも同時に必要だと思っています。一見相反するような言葉なんですが、そういう意味で上品さとパンクさの両方を兼ね備えていたいなっていう感覚があります。

――これはいつ頃からの信念なんですか?

もともと性格的に大事にしている部分なんだと思うんですけど、明確に認識したのは中学二年生の頃です。中学の頃から大好きなミッシェルガンエレファントっていうバンドがあって。ゴリゴリのガレージロックバンドなんですけど、パリッとした細身のモッズスーツを着てパフォーマンスするので、厳ついのになんだかすごいクラシックで品があるんです。UKロックの歴史を重んじて曲を作っている重みや知性もあり、それでいてギターのエフェクターを一切使わず技術力だけで演奏しきるめちゃくちゃロックなかっこよさもある。その一方で、原宿ファッション出自のAMOちゃんっていうモデルさんもすごい好きで。姫カットにラベンダーのワンピースに厚底シューズ…みたいな。厳ついミッシェルとガーリーなAMOちゃんという全くトーンが違う二つを、なぜ私は同じように好きなんだろうって考えたことがあって。その答えとして、自分の軸を大事にしようとする美意識と、周りの目を気にせずそれを貫く強さがあるっていうところが共通しているんだなと気づいたんです。それを自分の中で言語化すると「品とパンク」になる、という感じです。

あ、大事にしている信念、あとふたつありました(笑)。
「問いを立て続ける」ということ。違和感を覚えた時や、「これってなんでなんだろうって」もやっとしたときになあなあにせず、問いを立て続ける。どんな事もひとつずつ向き合っていけば変わっていけると信じる、その感覚を忘れたくないなと思うんです。

三つ目は、「フラット」でいることです。かなり意識的にやっていることだと思います。さっきキャリアの始まりでお話しした、インターン生だからとか大学生だからとかじゃなくて、「愛沙子はどう思う?」って聞いてくれたあの環境のおかげで、今の自分があると思っているので。自分が図らずして、まだ若いからとか、あるいはもうご年配だからとか、いろんなバイアスを持ってしまうことってどれだけ意識してもあると思うので。できる限りフラットでいたいと思って、役職や年齢や性別などではなくあくまで個として向き合う。この三つですね。

 

自身の経験を自分らしい言葉で語る姿が印象的な辻さん。Xでも日々ハッとさせられる発信しているので、ぜひチェック!

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