株式会社arca CEO・辻愛沙子 「なんで」を貫きぶち抜く強さ

株式会社arca CEO・辻愛沙子 「なんで」を貫きぶち抜く強さ

lumilyでは初となる20代の女性が登場。クリエイティブディレクター、Z世代のオピニオンリーダーとしても注目を集める辻愛沙子(つじ あさこ)さんに、経営者、クリエイターとしての歩みと、自身の価値観がどのように養われてきたのかをインタビューしました!

【辻愛沙子プロフィール】
27歳/職業:株式会社arca CEO・クリエイティブディレクター/家族構成:独身
instagram @ai1124arca
X @ai_1124at_

topics“なのに”がつく違和感を突き詰めて

――まずは、辻さんの会社について教えていただけますか?

クリエイティブやブランディング、マーケティングを行う会社です。所謂アイディアを考えて形にする仕事なので、実際に手掛けるものはプロジェクトによって様々です。例えばグラフィック、文章、映像、ときには商業施設や展示など、商品から空間までいろんなものをプロデュースしています。業界としては広告業界と捉えていただくとわかりやすいかなと思うんですが、プロジェクトごとにいろんな企画を考えて形にしていく仕事です。

「テレビCMを作ることもあれば、商業施設のコンセプトを作ったり、ネーミングを考えたり。デザインやコミュニケーションを通じて社会課題に向き合う『クリエイティブアクティビズム』という考え方を大事にしています」

arcaは基本的にtoBの事業がメインなのですが、いくつか自社事業もやっています。
Social Coffee House(ソーシャルコーヒーハウス)という事業は、社会課題やカルチャーなど、大人の教養を身に付けるためのオンラインスクール。様々なゲストをお招きして茶道の話から沖縄の基地問題まで、2週間に1回いろんなテーマをピックアップして配信する学び場です。
Ladyknows(レディーノーズ)というプロジェクトは、ジェンダーギャップにまつわるいろんなデータを、わかりやすくリデザインして気付かせているメディアで、ジェンダーギャップの解決を目指すというものです。factfullnessのジェンダー版と思っていただくと分かりやすいかもしれません
最近では株式会社DEと共同でKIFFma(キフマ)というものを立ち上げて。売り上げの一部が寄付される社会課題解決型のフリマで、出品者が売上のうちの寄付の割合を決め、購入した人が寄付先を決めるっていう、関わる人みんなが社会課題のことを考えるマーケットを不定期開催で運営しています。
私自身の個人を主語にすると、2019年から毎週水曜日news zeroという報道番組でコメンテーターをしていたり、メディアや講演会など表の場でお話しさせていただく仕事もしています。それもあってメディアを通じて知ってくださる方もいらっしゃるのですが、実は本業はクリエイティブと経営、所謂裏方の仕事なんです。

――社会課題に向き合おうという気持ちはいつ頃から大きくなっていったんですか?

私は大学在学中に仕事を始めたので、「女子大生なのに仕事をしてるなんて偉いね」みたいなこと言われたりして「“なのに”ってなんだ?」と思った経験があって。男性で在学中にスタートアップを立ち上げる人は結構いると思うんですけど、それが女性になると“なのに”がつく違和感を当時はすごく感じていました。報道番組に出始めてからは、普段触れない当事者の人たちの声を知ったり課題について学ぶ機会が増えて、そういうモヤモヤの延長に政治や社会課題があるというのをより強く感じるようになりましたね。

それと、そのモヤモヤってどこから生まれてるんだろうって考えたときに、その原因のひとつに広告業界が生み出してきたイメージがあるんじゃないか、と仕事をする中で気づくことも多かったんです。例えば、キッチン用洗剤のCMは女性がキッチンに立って、ビジネスカードのCMにはスーツを着た男性が出てくる。当たり前とされているステレオタイプは、自分が身を置いている業界が生んでしまっているものも多いんじゃないかと気付き始めて。例え自分が作った表現じゃなかったとしても、そういう業界に身を置くものとして自分にできることはないかという思いが次第に強くなりました。表現でそういうステレオタイプを植え付けられるなら、逆にひっくり返すこともできるんじゃないかなと思ったというのがきっかけでもあります。

――そういう発信をしていくことって、業界にとっていわゆる「出る杭」になったりしませんか?

変えていこうっていう流れは、広告業界全体としてもあって。時代の流れもあると思っていて、私も20年前、30年前の広告業界で仕事をしていたら、もしかしたら同じようにものを作ってたと思うんです。誰が悪いってよりは、そういうことに目を向けられていなかった時代に作られてきた風習のようなものなので、むしろ業界全体としてちょっとずつ変わらなきゃいけないよねって思ってきている方が増えてきているような気がします。その中で、表で発信することも多いクリエイティブディレクターとして、出来ることを先陣きって改革していけたらなとは思っています。国際的な広告賞でも、社会課題を解決していくような広告クリエイティブが評価されるようになってきていますね。

 

work style「愛沙子はどう思う?」を大切にしてくれる会社との出会い

――先ほど学生のときから仕事をしているとのことでしたが、辻さんのキャリアについて詳しくお伺いしても良いですか?

一番最初は、アパレルのプレスをやっていたことがあって。元々服はすごい好きなので、アパレル業界に行こうかと考えたほどです。ただ、私自身興味関心の幅が広くてやりたいことがいっぱいあった。広告業界の仕事って、時計の広告を作るときもあれば、化粧品の広告を作ることもあるし、いろんなテーマを扱うことが多いんですね。だから自分にはきっとそういう業界のほうが合うんじゃないかって思ったんです。それでアパレルを1年間で辞め、まだ当時大学在学中だったので何社かインターンして、その中の1社で「ここだ」って思う会社に出会って。

――どんなところにピンときたんでしょうか?

中学高校と海外に住んでいたんですけど、大学で日本に帰ってきて、日本の足並みを揃える文化みたいなところにモヤモヤしていたんです。アパレルでもほかのインターンでも、本当はもっと頑張ったほうが楽しいし成果も出るはずなのに、みんなで足並み揃えようとか、インターン生だから控え目でいるべきという風潮を感じてしまって。でもその会社は年齢も性別も関係なく、「愛沙子はどう思う?」と個人として向き合う文化がある会社で。当時はまだ小さな会社だったので、すでに出来上がっている大きな会社に入るより、大きくなる過程を自分自身の目で見ながら自分もそこに貢献できるような会社に入りたい、という思いもありました。そんな会社の風土と、その後上司になる牧野圭太さんという方とすごく波長があって、ここで働きたいと思い卒業する前に社員として入社を決めました。

――最初は会社員だったんですね。そこから起業した経緯は?

いつかは起業するんだろうって何となくは思ってたんですけど、最初は会社の環境が本当に楽しくて。一生懸命自分が立てる打席に立って、楽しく仕事をしてたらちょっとずつ指名の仕事が増えてきて、自分が作ったものがメディアに出たり密着取材が入ったりということが増えていったんです。そんな歩みを進めているうちに当時のarcaの親会社と、「ちゃんと子会社を作って色を出していったほうがいいよね」という議論になったんです。元々グループに子会社がいくつかあるという会社だったので。最初は経営なんて何もわからなかったので、グループ会社の人たちにいろいろ話を聞きながら学ばせていただきました。

そんなときに、親会社が上場したんですね。環境も変化したし、さらにコロナの流行もあって、自分がいつか独立するんだとしたらきっと今だろうなと思って、2020年の1月に独立しました。

――お話を伺っていると、子会社を作ったときより、独立の方が辻さんにとって大きな出来事という印象を受けます。

大きいですね! 大変なことだらけですが、不安を感じてる暇もないぐらい日々走ってるって感じです。関わっているメンバーが良い人たちばかりなので、そこにも救われていますね。

――そもそも広告業界自体がめちゃくちゃ忙しそうなイメージ。

忙しくはあるかもしれないです。やっぱりバタバタはしますね。最近だとプリキュアの20周年展の全国巡回をやっていて。そういうオープンが決まっているものは納期を絶対にずらせない。それに加えて自社事業でやりたいことも多いので。飛んできた球を打つだけじゃなくて、余裕ができたらすぐ自分から何かを立ち上げてみたり動いてしまいがちなんです。やりたいことがたくさんあるので、忙しいんですけど、一個づつ形にしていけたらと思いながら日々邁進しています。まだまだ時間が足りず形にできていないアイディアも沢山あるので、30代に向けては余裕を作るっていうのが今の目標です。新しいことをできる余力を常に持っていたい。

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