AIにはできない“本物”を追い求めて エアリアルアーティスト・田尻晶子

AIにはできない“本物”を追い求めて エアリアルアーティスト・田尻晶子

10代の頃からプロダンサーとしてキャリアをスタートさせ、現在はエアリアルアーティストとして活動する田尻晶子さん。生活と仕事が密接につながっている“アーティスト”という職業の魅力とは? ついつい無理をしてしまう人にも参考になるヒントがつまっています!

【田尻晶子プロフィール】
年齢:34歳/職業:エアリアルアーティスト、モデル/家族構成:独身
instagram @aco_ciel

topics29歳、空中パフォーマンスとの衝撃的な出会い

――エアリアルアーティストというのはどんなお仕事なのでしょうか?

“エアリアル”は空中演技の総称で、私が主にやっているのは布を使った演技で「エアリアルティシュー」や「エアリアルシルク」と呼ばれています。天井から吊るされた布を使って踊る空中パフォーマンスをしています。

エアリアルシルクの演技。天井からつるされた布を使い、地上5メートルの高さで踊る。パフォーマーはエアリアルアーティストの田尻晶子さん。

ショーでの田尻さん。なんと高さは約5メートルもあるそう。

――もともとはダンサーをされていたんですよね。ダンサーからエアリアルアーティストになるまでの経緯を教えてください。

幼い頃からいずれダンスや芸能の学校に行きたいと思ってて、高校でダンスの学校に入りました。10代のうちにプロになるのがひとつの目標だったので、卒業前の17歳のときからプロダンサーとして仕事を始めて、その後avexに所属してバックダンサーなどをしていました。

その次の目標が、23歳までにダンスだけで生計を立てられるようになりたいということ。同い年の人たちが大学を卒業して新卒で働く年になるまでには、私も同じように年契約の仕事を持ちたいと考えていて。読売巨人軍やヤクルトスワローズのチアガール、ジェフ千葉のイメージガールなど、スポーツチームや企業と年契約の仕事をすることを意識していました。

――そしてその後空中パフォーマンスと出会う。どんな出会いでしたか?

もともとシルク・ドゥ・ソレイユが大好きなので空中パフォーマンスの存在は知っていたんですが、日本で習える場所があるって知らなかったんです。29歳のとき、昔の現場の同期の奥さんが空中パフォーマンスの先生をやられているっていうのを聞いて、体験レッスンを受けに行ったら衝撃的で。そこから毎週休まず、4年ほど続けています。

――これまでやっていたダンスとは違うんでしょうか?

私の中では明らかな違いがあります。ダンスは体ひとつあれば踊れるのに対して、空中パフォーマンスは重力、遠心力、風や布と一体になって踊る感覚があります。常に危険も伴いますし布と仲良くなって踊らなきゃいけないので、自分の都合だけでは動けないんです。最低でも5メートルくらいの高さで演技をするので、筋力や柔軟性などの肉体的な強さや、道具についての知識など、あらゆる条件をクリアすることが必要になってきます。

 

turning point病気を経験して初めて自分の内面に目が向いた

実はエアリアルと出会う前の3、4年は、病気をしたり精神的にもバランスを崩していて全く踊っていないんです。入院して手術をしたり、ダンサーとして働いていない期間がありました。そのとき、体はもちろん肌もすごくボロボロになってしまって、メイクもできないし人と会うのも難しくて。それまで人前に立つお仕事しかしてこなかったので、それ以外で自分が人の役に立てることは何もないんじゃないかと思って急に怖くなったんです。体が使えなくなっただけで自分は何もできない人間なんじゃないかと不安に駆られました。

――つらい状況ですね。どうやって立ち直ったのでしょう?

行動を起こしたというより、それまで外側を磨こうとしていたベクトルが、そこで初めて内側に向いて、自分の中身って何なんだろうと考え始めました。どんなに肌が荒れていても、踊れなくても、目の前の人を笑顔にしたり喜ばせることってできるんじゃないかって。人の話を最後までちゃんと聞くとか、どんなに小さなことでも心があればできることはたくさんあるなと、ボロボロな自分でもできることにひとつひとつ気が付き始めました。

エアリアルアーティストの田尻晶子さん。

ショーをしたり講師をしたりするのはもちろん、モデル、シャンソニエでのMCや歌の仕事、実家の会社でのweb画像の制作など5、6の仕事を並行しているそう。それぞれの場所で出会った人の縁をつなぐことができるのもやりがいのひとつ。

自分っていう瓶があったとして、今までは瓶の外側に良いラベルを貼ろうとか瓶自体を高く売ろうという方向性で考えていたのが、瓶の中身にどんなものが入っているかひとつずつ確かめていくというふうに変わったというイメージです。その過程で自然と自分の環境や身近な人への感謝の気持ちがわいて、人間としての基礎が見直せたと感じましたし、今自分が生かされていることに感謝できるようになりました。

――田尻さんにとって、自分の基礎になっている経験ってどんなことだと思いましたか?

2021年5月に初めて自主公演を企画したことですね。コロナウィルスのパンデミック直後、世界のエンタメが一気にストップして、私だけじゃなくてアーティストは本当に仕事がなかったんです。でも逆転の発想で、こんな今だからこそ創れる作品があるんじゃないかと思い、そのときにしかできないコラボレーション作品を創ることに挑戦しました。当時シルク・ドゥ・ソレイユのツアーから一時帰国していたアーティストさん、海外から帰国したばかりの映像クリエイターさん、大型ホールでの本番が中止になってしまったダンサーさんなど、コロナ禍だからこそ出逢えた皆さんが集まってくれて、最高の作品を創ることができました。

これまでの私は受け身なことが多かったですし、家族の中でも6人兄弟の末っ子でリーダーシップをとれるタイプでもなくて。だからそのときのご縁はもちろん、今できることに全力を尽くしたいという気持ちだけで動けた経験自体、私にとって宝物になっています。どんな状況であっても今が一番最高だと言えるような状況は、自分で作りだせばいい。そういうマインドを培うことができた経験でした。

 

work style心技体そろってこそ良いパフォーマンスができる

――エアリアルと出会ってから、変わったことはありますか?

すごくたくさんあります。まず物を物とは扱わなくなりました。布は私の命綱だからすごい頼りにしてるし、絶対ぐしゃぐしゃにしてポイって置いたりしないです。布だけじゃなくどの道具も全部自分の命を支えてくれているものなので、物をすごく丁寧に扱うようになりました。ちょっとした気のゆるみが命にかかわるので、エアリアルをやっていたら一生謙虚でいられるんじゃないかなって思います。

――パフォーマンスをする上でのこだわりはありますか?

本物であること。パフォーマンスに乗せている感情に心がこもっていること。そこに嘘がないっていうか。写真はごまかせると思うんですけど、パフォーマンスって本当にごまかしがきかないと思うんです。動画で動きの加工はできないし、踊りをうまく見せるフィルターやエフェクトって存在しない。踊りとかパフォーマンスは、唯一AIにできないことなんじゃないかなって思います。

――エアリアルアーティストとしてのこれからの目標があれば教えてください。

海外でパフォーマンスをしてみたいっていう目標があります。パフォーマンスは言葉が通じなくても交流することができるコミュニケーションツールだと思うんです。だからこそ本物じゃないと伝わらない。言葉がなくても心と心がつながるようなパフォーマンスをできるようになりたいです。そのためには根本的な体が出来ていないと伝えられるものも伝えられないので、体作り、技術、メンタルどれもすごく大事で、心技体がひとつじゃないといいパフォーマンスはできないと思っています

エアリアルアーティストの田尻晶子さん。窓辺でポージングを決めてもらう。体幹がしっかりしているので足先まで美しい。

1回の練習ってどのくらいやるんですか?「人によると思いますが、私は3時間くらい。床のストレッチから始まって、布を使ったストレッチとトレーニングで1時間くらい。そこから登り始める感じです」

――良いパフォーマンスをするために気を付けていることはありますか?

まずは健康管理ですね。エアリアルでは自分の重さを支える筋力が必要で、以前は酵素ファスティングのような食事制限をしていたんですけど、それだと筋肉も痩せてしまって危険なので、筋肉を減らさず体型を維持できるように栄養の勉強をするようになりました。ほかにもお酒の量を減らしたり、睡眠時間は7時間確保するとか、本質的に健康でいられる生活習慣に変わったと思います。長く現役でいるために、どんなにハードな演目でも体を傷めない踊り方ができるように研究したり、やればやるほど健康美につながるような踊り方というのも意識しています。

それと、メンタル面では取り入れる情報を選ぶことです。普段目にする光景や、耳にする音、使う言葉でその人の世界観が構築されると思うので。芸術でも自然でも本物の美にたくさん触れ感動体験を自分に与えて、そのとき何に感動したのかを自分の中にストックするようにしています。ほかにも、ストレスをためない、体の声を聞くというのも気を付けています。

 

life styleより輝くために自分にプレッシャーを課す

――お話を聞いていると、生き方とパフォーマンスってすごく密接ですね。オンとオフはあるのでしょうか?

あんまりないんですよね、寝てるときがオフだなって思うくらいで。どれも好きなことで、やりたいと思ってやっていることなので気にならないとも言えます。

しいていえば、オフの日として絶対に誰にも会わない日を作るとかは意識してます。目の前のことだけに追われて、タスクをこなすことに一生懸命になっちゃうのは避けたいので。一回立ち止まって、「この方向性であっているかな」「本当にこれをやる必要はあるのかな」って考える自分会議を定期的にやるようにしていて、現在地を把握したり目的地を設定し直したりするような自分と向き合う時間がオフって言えるかもしれないです。

――今一番幸せを感じる瞬間はどんなときですか?

純粋に美しい物が大好きなので、アートやインテリア、建築を眺めているときは幸せですね。あとは自分のショーを見て「エアリアル始めてみたい!」と言ってもらえたり、実際に始めて楽しそうに踊っている姿を見るとすごく嬉しいです。「何のためにやってるの?」と聞かれたりすることも多かったんですけど、続けてきてよかったなと思う瞬間のひとつですね。

毎日のルーティンはありますか?「朝携帯のメモに、必ず今日やること、余裕があったらやりたいことをズラーっと書きます。すべて完璧にできなくてもいいけど、それを頭に入れておくことで時間の過ごし方が違うので」

――最後に、日々大切にしている考え方を教えてください。

「No pressure , no diamond」ですかね。これはトーマス・カーライルというイギリスの思想家の方の名言なんですけど。

ダイヤモンドって炭素でできてて、炭とか黒鉛筆とかと元素は同じなんです。同じ炭素の中でも、地中ですごい圧力がかかったものだけがダイヤモンドに変わるんですね。その言葉の通り、自分にプレッシャーを課していなければ今以上に輝けることはないと思うんです。何かピンチに直面したら、輝くチャンスが来たと思って成長できるように取り組むことを心掛けています。

――今自分に課しているプレッシャーはありますか?

また観たい、また共演したい、というような“また”と思ってもらえるプレーヤーでいること。そのために、日々自分をアップデートしたり、人間としての面白さみたいなものを持ち続けることが必要だと思っています。
それと”教える側”をやることです。これまでもパーソナルレッスンで教える機会はあったのですが、最近私がエアリエルを習い始めたスタジオで固定のクラスを持つお仕事をするご縁をいただいたんです。国内外ともに第一線で活躍してきたスペシャリストの方たちに習ってきて、自分が体験した素晴らしいレッスンや学びを、今後は私が提供する側になりたいと思っています。

そのために、基礎を見直したり、教え方を勉強したり、尊敬する先生のもとでインストラクターのトレーニングをしているところです。私の人生が変わったような、神秘的で美しくて楽しいエアリアルレッスンができるようになりたいです。

 

撮影中のポージングも、指先足先まで美しくさすがでした! このインタビューでエアリアルに興味を持った方は、ぜひ出演情報もチェックしてみてくださいね♪

 

■出演情報

Night Club『WARP Shinjuku』にTrastic.Fパフォーマーとしてエアリアルパフォーマンス出演
SNSにて出演情報更新
WARP Shinjuku website
https://warp-shinjuku.jp

■レッスン情報

・パーソナルレッスン、セミパーソナルレッスン
Aki Tula エアリアルヨガ南青山
Aki Tula website
https://www.aki-tula.com

・固定クラス
Pole and Aerial Studio Polish
六本木、銀座studioにて毎週レッスン開催中
Studio Polish website
https://www.polish-415.com

 

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