誰よりも働く経営者・梶千尋の未来予想図

誰よりも働く経営者・梶千尋の未来予想図

全国に6院を展開するHAABクリニックの代表理事・梶千尋さん。医者以外のクリニック経営が成功するのは前代未聞と言われる中、利益をあげてきた梶さんの働き方とは? 経営者視点で語られた結婚・出産のメリットにも注目です。

【梶千尋プロフィール】
44歳/職業:一般社団法人千翔会理事長/家族構成:夫、子ども2人
instagram @chihirokaji0125(Chihiro Kaji)

careerNYのスパに感銘を受け美容の道へ

――梶さんはどんなきっかけで美容の業界に?

私が小さいとき、スーパーモデルブームだったんです。スーパーモデルや外国の人の美しさやファッション、日本とのスケールの違いに圧倒されて、中学生高校生くらいから憧れがあって。高校がインターだったので、進路で海外に行くっていう選択肢もまわりに多くて、それでアメリカの大学で心理学を勉強したんですね。

――いきなり美容じゃなかったんですね。

心理学って美容ともすごくつながりが深いんです。キレイになりたいとかコンプレックスの解消とか。健康には内面のストレスも関係してくるし。

ご自宅でインタビューに答える、一般社団法人千翔会理事長・梶千尋さん。

この日は職場も兼ねているご自宅で取材&撮影。前日のホームパーティーの名残で、至るところにバラの花が飾られていてとても素敵でした。

それである時母が遊びに来て一緒にニューヨークのスパに行ったんです。サウナがあってジャグジーがあって、エステティシャンの方がいてフェイシャルトリートメントも受けられるような。今は日本にもあるんですけど、その当時はまだなかった。そこがあまりにすばらしくて「これは女性の心理学だな」みたいに思っちゃって、そこから美容の世界に。それで日本に戻ってきてから美容外科やアートメイクの先生と一緒に仕事するようになって、っていうのがスタートです。

――日本に戻ってきてからはどんなふうに仕事をしていたんでしょうか?

最初はまつ毛のエクステンションとか瞳が大きくなるコンタクトとか、そういうものを輸入していました。当時日本になかったので先駆けみたいな感じで。旬のものを追いかけていって、会社もちょっとずつ大きくなっていきました。

turning point想定外の出来事がきっかけで事業が拡大化

――現在の美容クリニックの経営に携わり始めたのはいつ頃でしょうか?

10年ほど前で、自分が卸していた化粧品を扱うエステサロンを買収したのがきっかけです。そこでいろんなお客様を見たときに、痩せたいっていうことにすごくお金を使ってる人が多くて。でもカルテを見ると全然痩せてない。そこでそのサロンを痩せることに特化したクリニックにしたんです。それがひとつの転機ではありましたね。

――梶さん自身はどんな部分で転機だと感じましたか?

全国に4店舗(当時)あったサロンだったので、いきなり従業員もお客様も増えちゃって。そのときに寝ずにカルテ見てカウンセリングの仕方見て施術内容見て、全部指導をして2カ月後には従業員は最初から私が雇ったスタッフのようになりましたね。それがなければ2、3人で利益率のいい会社でやれればいいと思ってたので、それが一番大きな転機です。

昨年南青山にオープンした新院での梶千尋さん。

クリニックは昨年南青山にも新しい院がオープン。梶さんがこだわり抜いたラグジュアリーな内装の一部がこちら!

あともう一個の転機は主人との出会い。ちょっと年下なので考え方が新しい世代だったから、もっと会社を大きくしていかなきゃだめだっていう野心があった。そこで一緒に頑張って一気に会社が大きくなったんで、それが2番目の転機かな。たぶん私一人だったら好きなときにご飯食べて旅行してそれで充分、子供もいらないかなと思っていたんですけど、結婚してパートナーができて、自分が思ってるのとは違うステージに引っ張ってくれる人がいたのは大きかったです。

work style自分がやっていることで嫌なことはない

――梶さんにも下積み時代はあったのでしょうか?

25歳で東京出てきて、そこからしばらくは1日3時間くらいしか寝てなかったですね。お客様に施術をするという1対1の仕事だったし、人が足りないからさらにそれを誰かに教えて人を増やしていくっていうこともやっていかなきゃいけなかったから。
そのときから全部自給自足でやるっていう癖がついてるんで、今も新しい事業を始めるときは、私と幹部の二人ぐらいで立ち上げて、軌道に乗ってきてから会社としての展開をしていくというやり方をしています。

――そんな大変なことを?

今取り組んでいるエクソソームの会社でも1から勉強して研究して、形にしてお金を稼ぐスキームまでを作っています。クリニックがオープンするときも、設計や一つ一つの家具選びや導線も全部自分が決めてやっています。下積みのときはとりあえず誰よりも働こうと思っていたのでそういう働き方をしていましたが、そう考えると今も下積みをしてるっていう感じですね。

――そんなに働き続けられるモチベーションはどういうところにあるんでしょう?

でも私の場合、自分でやっているので調整もできるじゃないですか。嫌なことをしないとか。そもそも嫌なことって、嫌だと思うから嫌なだけで、その概念を捨ててしまうと世の中にないはずなんですよ。だから自分がやってることに嫌なことがあるわけないっていう考え方。

――というと…?

例えば「友達と遊ぶ時間がないくらい仕事して我慢してるじゃん」って言われたとしても、そもそもそういう概念がないんです。仕事して結果を出すっていうことが一番の目的だから。その間にあることを嫌とも思わないんですよ。

インタビューに答える梶千尋さん。子どもができたタイミングから、現場の仕事より裏方の仕事がメインになったそう。

最近はスタッフの教育のためクリニックの現場に出ることもあるそう。「子どもができたタイミングから裏方の仕事のほうが多いです。ただ仕事量は変わってないですね」

それに私の場合、朝の9時から夜の9時まで12時間くらい仕事をするんですけど、会社のスタッフが家に出入りするんですね。でも私はずっと椅子に座ってるだけなので体力的には全然大丈夫じゃないですか。ご飯もUBERがあるし、Zoomなら映像を消せるからご飯食べながらでもできる。子どももお手伝いさんが世話していたとしても家でうろうろしてるのでコミュニケーションとれるし、学校に行ってるとき以外はずっと一緒にいられる。そういう自分にとって都合が良いと思える状況を自分で作ってるので、嫌と思うようなことはあんまりないかもしれないですね。

work style経験値が新たな武器になる

事業の立ち上げだけじゃなく、従業員の相談を受けたり、うまくいっていない部署の立て直しをしたり、人事と査定を見たりとかもするし、財務も自分でやっています。もちろんチームもありますけど、全部やっています。「それだけのことを一人でやるって大丈夫?」って思われるかもしれないけど、わからないことがあるより把握してるほうがラクなんですよ。自分でやるからこそ、運転資金とか未来に入ってくるお金とか計算しながらやるには財務ってめちゃくちゃ大事。

――財務って特別な勉強が必要なイメージですがどうされているんですか?

勉強よりも経験が一番なので。税理士さんに疑問に思っていることを全部聞いていったら、それは自分にとっての家庭教師みたいなもの。それで3年もやれば大体のことがわかってくるし、そうなると新しい知識もすっと入ってくる。

VIPの方のトータルビューティープロデュースもする梶千尋さん。ご本人の肌の美しさ、細く洗練されたシルエットも美しかったです。

「メニュー1個作るにも、全部自分が作ったものだから、原価もわかってるし迷いもない」by梶さん

今はマーケティングをやっていて。最初は専門分野だからできないって思ってたんですけど、今は少しわかってきたかもっていう段階。わかるまでにあと1年くらいかな。今までは常にその時期の新しいものを取り扱っていたので、ここにしかないものだったからマーケティングがいらなかったんです。たまたまそれが尽きない人生だったのでうまくいっているんですけど、さらに一般的な集客の方法が身に付けばもっと大きくなる。
集客ができて、人材の教育と財務がしっかりしてたら、絶対に会社はつぶれないと思っています。安心な要素を自分で積み立てている。仕事もやることも増えていくんですけど、ひとつひとつ武器が増えていくっていう感じなので、ストレスが増えるわけじゃないんです。

――お仕事をする上でのこだわりはありますか?

従業員に求めることは、嘘をつかないこと。何かあっても謝れば改善すると思うんですけど、隠したり嘘ついちゃったりすると成長できないじゃないですか。仕事はみんなでやっていくことで、言ってみれば第二の家族みたいなもの。だから嘘をつくっていう関係性は絶対避けますね。

――自分自身に課しているルールはありますか?

私は全然だらしないんであんまり自分にはルールをつけられないんですけど、ただひとつ「だれよりも働く」っていうのはあります。それに関しては、誰にも文句言われないですね。うちの会社で誰が一番働いてるかってなったら、間違いなく全員私って言うと思います。

――今後の課題はありますか?

今年の課題なんですけど、計画性をもって何かをするっていうところがまだまだ弱くて。リマインドがなかったら予定を忘れてしまうような人なんですよ。計画を持って生産性をあげる、っていうのをやっていきたいですね。
例えば7時間寝るって決めてたら、今は子どもの世話とかもあるんで、今までだらだらやっていたところをキュッてしないといけない。しっかりと自分を戒めて、ちゃんとスケジュール通りやるっていうのが課題ですね。自分で決められる時間の質を上げるっていう。

 

life styleぼやけていた未来予想図が明確に

――お子さんが生まれる前はすごく働いたとのことでしたが、当時はどんな感じで働いていたのでしょう?

24時間仕事をしようと思えばできるという感じだったので、今まではずっと仕事をしてるっていう感じ。友達と会うっていうのもほとんどしなかった。たまたまあいてるときに会える人に会うっていう。
今は逆に、子どもの行事だとか、お手伝いさんが休みの日は家のことをしなきゃいけないとか制限があるので、計画性をもたないと仕事をこなせない。そういう意味では質が変わったかなっていう感じがします。

――オフの時間はどういうふうに作っていますか?

オフは基本的には海外旅行に行くしかないですね。大阪にも名古屋にもクリニックがあるし、今はどこにいてもオンラインミーティングができるようになったので。飛行機の中もWi-Fiつながっちゃう。海外に行くと時差があるんで、物理的にその間は一回止まりますよね。

――じゃあ普段はなかなか気を抜けないですね。

ただ慣れましたね。もうずっとそういう生活なので。そのかわり、たとえば家を広くしたりとか、寝心地のいいベッドにしたりとか。今は自分の部屋にお風呂とか全部ついてるんですけど、他人が泊っても私のお風呂には入らないとか、そういう自分の中の超プライベートなことは確保したりしています。

梶千尋さんの趣味の一つが旅行。インスタグラムには旅行先での様子も公開。

梶さんの趣味の一つが旅行。この壮大な風景はサウジアラビアのアルウラで。

――結婚出産を経験してライフスタイルに変化はありましたか?

自分ひとりだけのペースで動けないというのを経験して、従業員との付き合い方は若干変わってきましたね。今までちょっとワンマンだったところが、少し協調性が出てくるとか。
あとは家庭を持っているコの気持ちがわかるようになった。「子どもが熱なんで今日休みます」っていうときに、これまでは「え、お客様どうするの?」っていう考えだったのが「仕方ないよね」っていう感じになるし。子どもが泣いていたりしても、うるさいとか思わないですもんね。どうしたんだろう、機嫌悪いのかなとか、のど乾いてるのかなとか思ったりする。それも経験ですよね。子どもができることで、それまで経験値がなかった部分の考え方がいろいろ変わりますよね。

――結婚出産を経験して一番よかったなと思うことは?

将来が見えること。この子たちが大きくなってこうなるとか、主人が年いってこうなるとか。これまでお仕事に対して、絶対に売上を何億にしたいとか、何十人社員がほしいとかいうステップが全然ない状態でやってきていたので、ぼやけていた未来予想図が見えるようになってきました。

――それはより具体的に数字の目標が立てられるようになったとか、そういうことでしょうか?

今までは、とりあえず働いておけばお金が入ってくるので、ずっとガムシャラに働いたらいいっていう感覚だったんですけど、今は家族もいるし自分だけの時間じゃないから、そうやって働くことができなくなった。その部分が変わりましたよね。
本当は会社をどうやって成長させていくかとか、自分がいなくなったときの会社のことも考えながらやっていかなきゃいけないはずだったんですけど、女だったんで。「女でこれだけ働いたら充分でしょ」みたいな感覚があった。ただやってるだけ。昔から男の人が「家庭を持ったほうがいいよ」って言われていた意味がよくわかりましたね。子どものために何かをするっていうより、子どもができたことがきっかけで、自分のことを客観的に見られるようになったというか。

 

future自分に嘘はつかない

――今後のお仕事の目標や理想はありますか。

これは常にですけど、なるべく従業員が辞めない会社でありたいっていうのが一番。そしてこれからは売上目標をただ達成させるんじゃなく、みんなで考えて達成したいです。その連帯感さえ持っていれば、新しい商品や事業は時代に応じて出てくるものなので、うまくいくと思うんですね。今従業員がどんどん増えてきているので、一人一人が豊かな生活ができることを大事にしたい。目標に対してみんなでトライして結果を掴みとることを積み重ねていけば、特に大きな目標を持たなくても必ず会社は右肩あがりに上がっていくので。

――最後に、日々大切にしている考え方を教えてください。

さっき言ったみたいに「嘘をつかない」っていうことですね。嘘さえつかなければなんとかなるんですよ。間違えたことしたら謝ればいいし、分からないことは聞けばいい。

――その「嘘をつかない」っていうのは自分に対してっていうのもありますか?

そもそも自分に嘘は絶対につかない、自分から逃げることは絶対ないので。だって自分じゃないですか。考えたこともないですね。

 

ひとつひとつの言葉が自身の経験に裏打ちされた梶さんのインタビュー、刺さるキーワードがたくさん飛び出しました! 自分に嘘は絶対につかないと言い切る梶さんの姿がとてもカッコよかったです。

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