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turning point自分の29歳の誕生日プレゼントとして起業!
――森本さんがChapters書店を始める前のことを。どんな経緯で書店主になったのでしょう?
新卒で電通に入ったんですが、大きな会社だったのでずっとこの会社にいるんだろうなと思っていて、当初は割と保守的にキャリアを描いていたんです。ただ、ずっとBtoBの仕事をしていたのですが、もっとお客様に近いBtoCの仕事がしたいという気持ちが強くなってきて。思い切って飛び込もうと思って27歳で転職をしました。当時の電通を辞める人は珍しくて、「人生大丈夫か?」って周りから言われてました。
――確かに超大手ですもんね。不安はなかったですか?
もちろん不安もありました。でも大きなものを捨てるという経験を20代でできたのが、その後のキャリアにとってすごく良かったと今は感じます。あの時に捨てることができたのが、ためらわずに走れる強みになったのかなと思っています。
――電通のあとは何を?
My Little Box(コスメのサブスクリプションサービス)、FABRIC TOKYO(オーダースーツ)という二社でBtoCのサービスを経験しました。日々お客様から届く嬉しいお声や、割と厳しいご意見まで、自分たちが作ったものに対して誰かが気持ちを寄せてくれること自体にやりがいを見出すことができて、やっぱり私はBtoCがやりたいんだということを実感しました。そうしたら次は何を思うかっていうと、自分でお客様を持ちたいって思い始めるんですよね。その最終形態が起業でした。
それで、自分の29歳の誕生日プレゼントとして会社を作ろうと思ったんですけど、誕生日が日曜日で役場が開いていなくて。なので厳密には28歳で作りました(笑)。会社を作るのはもうほんと簡単ですね。ただの書類作業ですから。お金も30、40万ぐらいの自己資金。だから、「起業しようか悩んでる」っていう悩みは、実は悩みじゃないと思います。してから考えてもいいくらいに誰でもできます。
――起業した時点では、Chapters書店のサービスの内容はどのくらい具体的に構想していたのでしょうか?
「本棚で手と手が重なる出会いを生みたい」、「本屋さんとマッチングサービスを掛け合わせたい」、ということまでは決めていました。当初は全部アナログの手作業でやろうと思っていたし、全く収益化を考えていなかったので、お気楽な週末起業でしたね。起業も経験値のひとつとしか考えておらず、実態は創作活動や自主プロジェクトの延長のようでした。
みんな20代を素敵に仕上げて30歳を迎えようとしがちですけど、20代って一番最後に大失敗ができる年齢だと思うんです。満身創痍で30歳を迎えるほうがかっこいいというか、それから先、楽です、生きていくの。
――でも実際問題、起業して赤字続きだったら事業が続かないじゃないですか。よくそんなに思い切れましたね。
最初はFABRIC TOKYOで週4の契約社員をしながら、週1の自由な時間を使って起業を始めたので、趣味のサブスクくらいの感覚でした。例えばお稽古ごとってお金払うじゃないですか。会社は赤字だったら毎年7万円の法人税を支払うだけでいいので、年間7万円払って起業家や書店主を名乗れるならすごくいいじゃん、みたいな(笑)。
だからコロナ禍で契約社員をクビになってしまって、この事業一本でやっていくことになってからは、本当にお金に苦しみましたね。銀行でお金を借りるのもあたふたするし、資金調達も全然うまくいかないし、VC(=ベンチャーキャピタル。成長企業に投資する投資会社やファンドのこと)も40社とか振られ続けて。でも動き続けていたらどうにかなるんです。結局投資家も決まったし、今も会社を続けられているし、何かを達成するたびに「できるじゃん、私!」って、すごく嬉しくなります。このあたりの実体験は、小説「あすは起業日!」の中でかなり詳しく書くことができたので、読んでもらえたら嬉しいです。