もっと誰もが自由に働き・稼げるように マーケティングリサーチ会社代表・福吉彩子のビジョン

もっと誰もが自由に働き・稼げるように マーケティングリサーチ会社代表・福吉彩子のビジョン

マーケティングリサーチという仕事を知っていますか? 新卒時代から20年以上この仕事に取り組みキャリアを築いてきた福吉彩子さんにインタビュー。私生活では二人の子どもを育てるワーキングママ。バリキャリを経て現在はマイペースに生きるライフスタイルを選択した理由とは?

【福吉彩子プロフィール】
年齢:45歳/職業:and Insight株式会社代表取締役/家族構成:夫、長男(中3)、長女(中1)
instagram @fuku44aya(福吉 彩子)

 

topicsこういう働き方があることを知ったら助かる人がいる

――これまでの職歴を教えてください。

大学を出て新卒でP&Gに。今は出身者が活躍されているのでマーケティング業界の中で有名ですけど当時はそこまででもなく、神戸方面の大学にいたのでそのまま神戸で勤めたいなっていうのが大きな動機でした(笑)。結局足掛け15年いましたね。

――今はご自身で会社を設立されて。

P&Gの入社から、今も一環して「マーケティングリサーチ」という仕事をしています。例えばAという商品が伸び悩んでいるときに、誰が買っているの?その人たちは何を考えていてどうしてAを使ってるの?というビジネスでの意思決定に関わる疑問を、誰に、どのように調査するのかを企画し、インタビューやアンケート調査を行い分析する仕事。
中でも特に力を入れているのはインタビューの分野。この仕事は一般には「モデレーター」と呼ばれていますが、私の会社では、インタビューだけでなく企画や分析まで行うプロフェッショナルとして「戦略インサイトリサーチャー」と呼んでいます。

「『マーケティングリサーチ』の業界ってマーケティングと比べると、実は従事している人数が少ないんです。マーケティング部はあるけど、マーケティングリサーチ部はないっていうメーカーもすごく多いんですよ」

「転職した先にマーケティングリサーチ部がないから、人材育成をしてくれない?」という話を元P&Gの先輩から受けたのがこの仕事を始めるきっかけ。当時は15年在籍したP&Gを辞めたばかりだったこともあり、会社員には戻りたくなくて、個人事業として業務委託でやってたんですね。年々仕事をするうちにマーケティングリサーチができる人を育成するっていう事業も走らせたくなり、会社を興したのが去年、2022年の7月なんです。

――なるほど。じゃあ今は自分でも動きながら、将来的にそういう仕事ができる人も増やしていくという。

それが3年後くらいのビジョン。すべての事業戦略が「顧客インサイト起点」にたったマーケティングで実現していこうっていうのが理念なのですが、&Insight(and Insight株式会社)では3つの事業を柱にしていて、一つはマーケティングリサーチの企画・実行・分析を請け負う事業。二つ目は法人に対してプロジェクトベースでのマーケティングリサーチャー育成事業。最後が個人に対して、マーケティングリサーチャー・戦略インサイトリサーチャーとして独立して仕事ができるようにしていく育成・支援事業。

マーケティングリサーチャー、中でも特にインタビューの仕事は、もちろん技術や知識は必要だけど、人に興味があって話をすることが好きであれば向き不向きが少なく、年齢や性別、学歴や背景等問わずにできる仕事だと思っています。例えば小さいお子さんがいたり、介護があったりなどフルタイムでは働きづらい方、リモートワークが必須な方であっても、1時間のインタビューを数回実行出来ればある程度まとまった収入を得られる。こういう業界・働き方・稼ぎ方があるっていうことを知ったら、もっと働きたいと思う人がいるだろうなって。あまり知られていない職種だということもあり人材が不足しているので、どんどん人を育成したいと考えています。会社で案件を受けて、リサーチャーの得意分野に応じて仕事をアサインしていく仕組みができれば、みんなハッピーですよね。

 

turning point肩書きのない「福吉さん」になるのが怖かったけど…

――新卒でP&Gに入って辞めるまで、15年というのは長い期間だったと思いますが、その間はどのような道をたどったのでしょうか?

夫が会社の1個上の先輩なんですが、6年勤めてから会社を辞めてアメリカにMBA留学するっていうタイミングで結婚しました。そのときに私も会社を辞めてついていこうと思ったんですけど、当時の上司のはからいで休職扱いにしていただいて。2年間休職してボストンで新婚生活を送り、その間に長男を産みました。

帰国するときは夫が自分で事業をするからっていうので、もともと働いていた神戸ではなく東京に移って、東京でP&Gの仕事を探してもらって3年ぶりに復職。でもまたすぐ下の子の産休に入って、同じポジションで仕事をし続けたかったこともあり2回目の育児休暇後はすぐに復職しました。そうしたら昇進のタイミングが来て。

――それは復職してからどのくらいのタイミングだったんでしょう?

2年かな? 今振り返るとそこからがすごく大変でした。昇進は私が望んだことでもあったんですけど、これまでとは違う分野の仕事になったことや、初めて正式に部下を持つっていう体験、そしていわゆる中間管理職になったこともあり大変に感じることの連続でしたが、2年間は頑張ってやろうと決めていました。

夫も事業を始めたばかりで忙しく、育児はほぼワンオペ。「ブラックベリー(当時のスマホ)持ちながらお風呂で寝てしまったり。とにかく疲れてました」

今思えば、当時は自分の仕事のことで精いっぱいで、子どものことがあまりきちんと見れてなかったんです。特に上の子はその頃6歳くらいになっていて、思うところもあったみたいで。運動会の当日朝に急に「運動会には出ない」って言いだして、結果本当に全く出ずに運動場の端っこでポツンと眺めているだけだったんです。彼なりに不満がたくさんあったっぽいんですよね。組体操がうまくいかないとか、走るのが早いからリレーのアンカーにはなったけど、前が遅くて抜かせなかったら結局自分が負けたことになるとか。

でもそういった彼が感じて、伝えていたであろう不満やストレスを、私はちっとも聞いてなかったし覚えてもいなかった。だめだ、子どものこと全然見れてないなって、このままでは子供のためにも親子関係のためにもよくない、と思い会社を辞めるきっかけになりました。

――15年もいたら、辞めるのは勇気がいったんじゃないですか?

「こんなにいい会社入ったのにもったいない」って言われるのも嫌だったし、実際に言われたし、『P&Gの〇〇さん』じゃなくなって、ただの『福吉さん』になるのが怖かったんですけど、今思えば大したことなかったなって。なんであんなに手放したくなかったんだろうっていう感じですね。辞めるときは大決断って思ってましたけど(笑)。

――辞めてから気持ちの切り替えはスムーズに?

そうですね、子どものためではあるけど、仕事をツラく感じていたのも辞めた理由のひとつだったので、決断は自分のためだったなって。3月末に辞めて、桜の季節はもやもやしたりしたけど、それ以降は全然でした。あと辞めた直後に、当時夫が事業をしていたケニアに、子どもたちを連れて10日間くらい旅行したんですよ。何も仕事で気がかりなことがない状態で行く旅行は久しぶりだったので、気持ちのリセットができたのも良い影響があったかなって思います。

 

work style「あなたはどう思う?」の千本ノック

――新卒時代はものすごく忙しそうなイメージなのですが、実際は?

そうですね、当時は忙しく働いてるのが良しみたいな時代でもありました。東京の大学から神戸にある本社のために異動してきた人も多いから社外に友達が少なくて、必然的に社内の同年代で仲良くなったこともあって、「文化祭で居残りして、クラスみんなで頑張るぞ」みたいな仲間っぽい雰囲気もどことなくあったように思います。

――その中で印象的な出会いはありましたか?

早く結婚して会社を辞めようかなと思った時期もあったんですけど(笑)、そうならずに今も仕事を続けているのは、25歳くらいのときに一緒に仕事をした上司のおかげですね。この方にめちゃめちゃ鍛えられたからこそ、今の私があると思います。

――どんな部分を鍛えられました?

自分で考える力ですかね。「なんでそう思うの?」とか「あなたはどうしたいの?」とか聞かれるんです、毎回。入社して数年なのに何百億円規模のビジネスのことなんて聞かれて「わからないです、自信ないです」みたいな態度は許されない。データや知識に基づいた自分の意見を持って、それを話すことがとっても重要なカルチャーとされていました。それには思考の整理が必要じゃないですか。だから、自分がどう思うのか、どうしたいのかを常に整理して答えられるようにしておかないといけないプレッシャーはありました。

でもそれがなかったら思考が浅いままで年を重ねたんじゃないかとも思っていて。5、6年で辞める人も多い会社でしたけど、それでも私が長年やってこられたのは、あの千本ノックみたいな「あなたはどう思うの?」を繰り返した経験があったからじゃないかなと思います。戻りたくないですけど(笑)。

20代で結婚・出産をしたかったからこそ、若いうちからキャリアを積める会社に入りたかったという福吉さん。「誰かに遠慮することなく生活したいから稼げるようになりたいっていうことも人一倍思っていました」

――仕事で活躍したい20代30代の女性にアドバイスするとしたら。

会社を辞めたときに最初に働くきっかけをくれたのは会社の先輩だったし、その後も会社の同窓会で会った元同僚が声をかけてくれたり。これまでに知り合った人たちの縁で仕事が広がり、そのおかげで私、ずっと営業0で仕事してきてるんですよ。だから月並みですけど、些細な人脈でもちゃんと維持しておくことですね。

――広げるのではなく維持。

放っておいたら疎遠になっちゃうけど、折を見てランチに行こうと誘うとか。他にもFacebookの投稿にいいねやコメントするとか、そういう地味なことを私は他の人よりやってる気がしますね。あとSNSを更新して自分の情報や近況を公開することも人脈維持のひとつだと思っています。どこで何がどうつながるかわからないから。

 

life style5:5のライフスタイルでちょうどいい

――今はどんな働き方のペースなのでしょう?

コンサルティング系の仕事といえば、クライアントのところに行って顔を合わせて会議をするスタイルが主流だったと思うのですけど、パートナー企業であるBloom&Co.さんは、コロナより前の2017年の春くらいからZOOMを活用したリモートワークを実行されていたこともあり、私もここ7年程ほぼ100%リモートワークが実現できています。

おかげで子どもと過ごす時間は昔に比べてはるかに増えていて、例えば子どもを塾に送り迎えする合間にちょっとした会議スペースを見つけて、1時間オンラインインタビューの仕事をすることも可能です。自分のあいてる時間をコントロールできるので、すごくいいと思います。

――じゃあ定時とか決まった労働時間とかは?

ないです。クライアントとの定例の会議は日程が決まってますけど、それに向けて企画や分析の準備する時間は自分のペースで作りますし。インタビュー業務に関しては、対象者が仕事をしている方だと土日や夜になったり、主婦だと日中の時間帯だったり、相手に合わせたスケジュールになりますが、子どもが学校に行ってる時間とか大事な行事がない日にするので影響はない。そんな感じで自分で決めてるっていう感じですね。

――お仕事と生活のバランスでいったら何対何くらいですか?

月にもよりますが、物理的な拘束時間でいうと5対5程度くらいかなと思います。

――オンオフの切り替えはどうしてますか?

切り替えとかあるようでないですし、そこまで明確な切り替えがなくてもいいと思ってます。仕事だからって別に腕まくりしなくても。私の仕事って、結局いろんな日常生活とつながっている気がしていて、何気なく見ているネットニュースやSNSの投稿も知識となっているだろうし、何か流行っているものを見たときに、それってなんでなんだろう?と考えて調べてみたり。

――あまり境目がないんですね。

私の今の働き方は、基本的にこれまで経験してきたことを切り売りしているように思うんです。会社員だったら無理難題を上司に言われたり、解決しないといけない問題に対して立ち向かうようなことがあると思うんですけど、私は今は仕事を選んでいるから、そんながむしゃらに無理をするような状況はあまりないんです。

ただ…困難に立ち向かい乗り越えようとするときに人は成長すると思うので、それが今の私には足りないとは言えますよね。でも今のライフスタイル的には、それでちょうどいいかなっていうふうには思っています。若い頃に散々仕事をしてきたから今があるとも言えるし。

P&G退職後は1年間ほど専業ママをやっていたことも。「子どもが帰ってきたらドーナツ作って待ってるとか、同じようなママたちとお茶しに行ったりとか、それも楽しかったです」

――ところで先ほどの話にあった長男さん、福吉さんが会社を辞めた後どうなったのか聞いても良いですか?

小学校入ったばっかりの頃はまだやんちゃなところが残ってたんですけど、そのうち落ち着いて。普通の小学生でした。

――接し方で気を付けたところはありますか?

中学受験をするしない、あたりでいろいろ考えた小学4年生くらいの約1年はかなり毒ママだったように思います。本人は特に希望していないのに、問題集買ってきてやらせてみたり、朝早く起きて計算ドリルやらせたり。

でもそれだとやっぱり「お母さんがやれっていうからやる」ってなっちゃったんですよ。自分で考える力を全然つけられてなかった。今でもお世話になっている「かおりメソッド」の教育法に触れてからは『戦略的ほったらかし教育』。本はとりあえず買ったり借りたりして身近な目のつくところに置いておくけど読めと強要はしない、子ども新聞の興味を引きそうな記事をトイレに貼っておくだけとか。子どもが自然に自分で考えることができる環境を整えるっていうことをし始めました。考えた結果、自分で決定できるだけの材料を用意しておく、みたいな。

保育園時代に私を悩ませた彼も今年高校受験で、今まさに進路を選ぼうとしてるんですけど、いろんなことを考えたり悩んだりしている様子を見るに、今まさに成長しているなと思います。

――では最後に、日々大切にしている考え方を教えてください。

子育ての話も事業の話も、やっぱり「自己決定」は大事だと思っています。言われたからやったとかじゃなくて、自分で考えて決める。20代の頃にそれを叩き込まれた結果、今の事業にもつながっているという気がしますね。

 

終始自然体な雰囲気でインタビューに答えてくれた福吉さん。現在準備中の個人向けのリサーチャー育成事業も、新たな可能性が広がっていきそうで楽しみですね♪

■and Insight株式会社
https://and-insight.com/

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