自分の人生は自分が主人公 花業界をアップデートする塚田茉実の挑戦

自分の人生は自分が主人公 花業界をアップデートする塚田茉実の挑戦

2021年12月に独立し創業一年以内に都内で2店舗の花屋を経営する塚田茉実(つかだ まつみ)さん。6歳の娘と7ヶ月の男女の双子を育てながらパワフルに働く塚田さんに、夢中になれる仕事の見つけ方をお伺いしました。

【塚田茉実プロフィール】
31歳/職業:株式会社DESiRE TOKYO代表取締役CEO/家族構成:夫、子ども3人(6歳の娘、7ヶ月の男女の双子)
instagram @matsumitsukada(Matsumi Jasmine Tsukada)

topicsリクルート社員からお花屋さんに転身

――塚田さんが代表を務める会社が運営している「#flowership」は、ロスフラワーを中心に取り扱うお花屋さん。そもそもロスフラワーっていうのはどういうものなのでしょう?

行き先が“廃棄”と決まった時点でロスフラワーと呼んでいます。一般的なお花屋さんだと週に何回か仕入れがあるんですが、どうしてもお花って生ものなので、売れ残ってしまったお花は廃棄処分になります。ウェディングで使われたあと捨てられるお花もそうですね。

――廃棄になるお花で商売って成り立つものなんでしょうか?

廃棄処分といっても、当社のお店で取り扱っているのは市場の過大在庫。お魚だったら豊洲や築地の市場がありますが同じような市場がお花にもあって、仲卸の業者さんが日本全国からお花を集めてきて、お花屋さんのオーナーや店長が買い付けにくるんです。月水金が表日と呼ばれる日で新しいお花がどんどん出てくるんですけど、例えば月曜日に仕入れた花をその日に全て売り切ることってない。でも水曜日にまた新しいお花が入ってくるので押し出されて廃棄につながってしまうんです。そういった過大在庫を、色や種類は選べないという条件でうちが買い取っています。市場にあるお花ってそのくらいの日数だとまだ全然元気な状態なんですよね。

――塚田さんは前職がリクルート。もともとお花に関わる部署だったとか?

全然やってなかったですね。HRに関わる部署でした。

――では、お花で起業しようと思ったきっかけは?

リクルートがお客様や業界の「課題」と「不」に対して向き合っていく営業の仕方をする社風なんですね。もともとパッションがあった花の業界について考えたときに、やれることがもっとあるんじゃないかなと思って、そういう活動をしたくてたどり着いたっていう感じです。

policy今ある習慣に花を添えて新しい習慣に

――花業界に着目したのはいつ頃だったのでしょうか。

もともと私は海外に住んでいた期間が長くて。幼少期はイギリスで6年、高校生活はアメリカで4年を過ごしてきて、家族が全員アメリカに残ってる状態で一人で日本に帰ってきて大学受験をしたんですね。急に家族も友達もいなくなって寂しくなり、当時住んでいた家のベランダ一面をガーデニングで埋め尽くしたというのがお花に救われた最初のエピソードです。そこから花が自分の心のバロメータみたいになっていて、枯れちゃったり水替えができなくて傷んでしまったときは自分の心のSOSのサインと受け取るようにしています。創業前の数年間は、都内のありとあらゆるお花屋さんに毎週末通い、消費者としてお花を楽しんでいました。

#flowerを経営する塚田茉実が、撮影のために持ってきてくれた花束。バラを中心に、スイートピー、ガーベラなどの花で華やか。

撮影で使用したブーケは塚田さんにご用意いただいたもの。「センターのバラをメインに、これからの季節にぴったりなスイートピーをいれました」

日本ではお花屋さんへ行くことも、お花をあげたりもらったりすることもハードルが高い。もっとお花を身近に感じてもらうことを目的に活動しているので、神楽坂に作った2店舗目は「呑める花屋」なんです。いまある何かの習慣にお花を添えるっていうやり方なら、買う習慣がつきやすいかなって思ったんですよ。飲む習慣がある方っていっぱいいらっしゃると思うので、それに花を添えるっていう形で、花を買う、花と距離が近くなるきっかけづくりみたいなところができたらいいのかなって。

――神楽坂店って、お花だけとかお酒だけで利用しても大丈夫なんですか?

どっちの方もいらっしゃいます! 23時まで営業してるので「そういえば結婚記念日だった」という方や、「呑んだついでに奥さんにお土産で」って方がお花を買われるっていうことも。そういうのはすごくいいなと思っています。

#flowership神楽坂店の様子。

こちらが神楽坂店。お花屋さんとキッチンが併設されていて、お花を見ながらお酒を飲むことができます。アルコールとお花3本で1,500円のセットが人気で、一杯飲んでお花を選んで帰る方が多いそう。

――ちなみに3店舗目の予定は?

今のところまだ検討はしていなくて。ロスフラワーを減らしていくのが目的なので、ロスフラワーの店舗を増やすことは私の中では矛盾してるというか。神楽坂店のような切り口で、全然違う習慣にお花を添えていくようなビジネスができたら3店舗目という展開もあるかなって思います。ロスフラワーって花業界の課題の中の一つでしかないんですよね。中長期的に見て、もっと花を魅力的に身近に感じてもらったり、花を好きになってもらう努力にエネルギーを注いでいかなきいけないと思っています。

turning point朝目覚めていきなりやりたいことが見つかるわけではない

――今社員さんは何名ですか?

私と役員ひとり、ほかに社員が二人いて、アルバイトさんが10人くらいいます。思い切って、第一号社員は新卒社員を採用しました。

――素朴な疑問なんですが、皆さん花の知識って豊富なんですか?

ほとんどの方が未経験。私がそもそも未経験からスタートしてるので、みんなそれでいいと思ってて。社員の二人も入社が決まってからお花の勉強をスタートして、あとは全部一緒にやって教えてできるようになってもらいました。二人ともとってもたくましく成長してくれていて、今後当社のボードメンバーとなるであろう頼りになるビジネスパートナーです。

――お花屋さんをやってて一番大変なことってなんですか?

今の季節は暖房いれられないことですかね。お花にとってベストなコンディションを作らなきゃいけないので。お花屋さんの中に一歩入ると、優先順位はお花が一番なんですよ。水も毎日変えるのでその作業もかなり冷えたりはするんですけど、お花のためだって思うと乗り越えられます。

――では経営で大変なことは。

花屋に限らないと思うんですけど、やっぱり「人」。当社メンバーに加わってくれた「人」がどれだけ活躍してもらえるか、働くことを通じて豊かになってもらえるか、そこの追求が大変です。例えばお花屋さんの接客ってイマイチなことが多いと私は感じているんです。アパレルや雑貨の会社さんって、接客に対してインセンティブが発生することが多いじゃないですか。金銭面だったり社内の評価制度だったり、人が輝ける仕組みを作っていることが多いと感じています。それがお花屋さんってなかなかないんですよ。ゆくゆくはインセンティブなど働くモチベーションが高まるシステムにしなければいけないと思っていて。もっと当社で働いている皆の幸せを追求していきたいです。その一方でまだ立ち上げたばかりのスタートアップなので、理想と現実のギャップが大変でもありやりがいでもありますね。毎日のように戦っています。

ブーケを持ちほほ笑む塚田茉実さん。

仕事をする上でのこだわりは?「当事者意識を大切にしています。取引先からのオーダーを相手目線で考えることもそうだし、チームメンバーと話すときは相手の立場にあった説明の仕方を心掛けています」

――独立したい人、起業したい人にアドバイスするなら。

私はまだ独立して間もないですが、一つ言えるのは「やってみての後悔」がないということ。独立したいけど、何で独立したいかわからないっていう状態のときが一番苦しいんじゃないかなと思いますが、自分がやるべき課題やテーマは絶対降ってくるので、好きなことを見つけてからは全力で突き進んでいただけたらいいのかなと思ってます。

――塚田さん自身、好きなことを見つけたなというタイミングはいつでしたか?

自分の時間を会社以外のことで使うとしたら何だろうって考え始めたときに、最初から「絶対お花だ!」って思っていたわけじゃなく、「お花っていうのもありかな?」くらいの気持ちでスタートして、とにかく多くの花屋さんに行ってみたり、レッスンに行ってみて理解を深めてみたりして徐々に確信に変えていったっていう感じですかね。当然お花は小さな頃から好きでしたが、花屋というビジネスモデルや業界が好きで課題を解決したいと思えるようになったのは、時期的には会社設立の半年くらい前。いきなり朝目覚めて「やれる」って思えたわけではない。今の働き方って副業とか兼業とかフリーランスとか、いろいろな仕事をすることが主流になってると思うので、挑戦しやすくなってるんじゃないかなと思います。

work style協力してもらえる信頼関係を作る

――独立する前の20代はどんな働き方でしたか?

社会人生活と子育て生活がほぼ同時進行というか、常に全速力で走ってきたという感じ。でも仕事においては妥協したことはなかったです。自分がやってることが正しいのか、世間の常識とのギャップもあったので、何度か見直したほうがいいんじゃないかって思ったタイミングもあったんですけど、割とずっと仕事優先で働いてきたかなって。最近になって6歳の長女はそれを理解してくれているというのが見えてきて、「間違ってなかったのかな」って思えるようになってきたんですけど。

――そういう忙しい時期をどうやって乗り切ってきたんですか?

前職の場合はひとつプロジェクトに入ったりするとその期間がみっちり忙しくなって、「今月から来月までは絶対お迎えいけません」みたいなスケジュールになっちゃう。そうなると家庭内のシフトをどうやって組んでいくかですね。

――家庭内のシフトとは?

うちはもう全員に活躍してもらってます。夫や私の母親、父親、祖母、夫の母親、時には弟や弟の奥さんにもお願いしたり、ありとあらゆる人に協力していただいて成り立っています。リクルートにいたときも今やってる会社も、みんなの協力があってこその働き方です。それは心から感謝しています。

――どうやってまわりの協力を得ていくのでしょう?

協力してもらう環境を作るのも、協力してもらう側の責任だと思ってるんですよ。なので、塚田茉実に協力してあげようって思ってもらえるように心がけています。感謝を伝えるのは当然のもと、対価を払うとかそういうことではなくて、日頃のコミュニケーションや根本的な信頼関係をすごく大切にしています。例えば、お互いに予定があるときは細かく共有することや、「今日は子どもを見ておいてほしい」っていう約束をしたとしたら、約束した時間が前後したりするなら細かな連絡をする。仕事だと当たり前だけど、家族になったらやらなくなっちゃう方って結構いると思うんですけど、家族だからこそ細かくやって協力をしてもらえる信頼関係を作っていくのは意識してます。

男女の双子が乗るベビーカーを押す塚田茉実さん。

双子の育児は大変?「長女を生んだのが25歳で、自分も若くて未熟だったのでその時のほうが試練だった気がします。今は長女も双子のお世話をしてくれるので、とても助かってます」

life style最後にはハッピーエンドになる選択を

――仕事以外で何か熱中していたことなどはありますか?

双子が生まれる前、かつ起業する前は、自分のオフの時間を見つけたらお花のレッスンに通っていました。

――結局お花のことにつながるんですね。

そうですね。今はどちらかというとオフのときは子どもとの時間を…そこの感覚は長女が生まれた頃とは違うかもしれないですね。長女の時はどちらかというとオフは自分と向き合う時間にしたいなって思ってたんですけど、今は自分と向き合う=子どもたちと向き合うっていう風に思えるようになりました。

――家族がいてよかったなと思うのはどんなときですか?

なんのために働いてるかっていうと自分のためでもあり家族のためでもあって。自分が貢献する先が増えた分やりがいも嬉しさも増えるというか。お休みの日をどう使うかっていう選択肢も広がる。そういう時間を共有できる人が多いっていうのはその分喜びも大きいし、悲しいときとか辛いときとかも共有するので分散が早い。それがリアルにできるのは唯一家族だけなのかなって思っています。

――最後に日々大切にしている考え方を教えてください。

「自分の人生は自分が主人公」。悩んだとき、判断をしなきゃいけないときに、自分の人生だから自分が中心になって選択をするべきだと思っています。大変なことの先に輝いている自分が見えているのであれば絶対そっちに行くべきだし。自分の人生を物語にしたときに、ハッピーエンドになっていればいいなと思うので、そこに向かって選択ができればいいんじゃないかなと思います。

 

双子の妊娠が発覚したのは、1店舗目がオープンする直前だったそう。仕事に育児にたくましく向き合う塚田さんの姿が印象的でした♪

 

■店舗情報
instagram @flowership_official

#flowership駒沢大学店
営業時間:11:00-18:30
定休日:無し(年末年始を除く)
ロスフラワーを中心に扱う花屋です。店内のお花のほとんどが380円(税抜)。ボリュームのあるブーケやアレンジメントが得意です。

#flowership神楽坂店
営業時間:14:00‐23:00
定休日:月曜日
吞める花屋として、花のある空間をお酒と共に楽しんでいただけるカフェバー×花屋。花のある生活の習慣化を提案する#flowershipの新店舗です。夜23時までロスフラワーを中心としたお花やブーケをご購入いただけます。チャージ無料。

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