「子どもが欲しいけど、なかなか妊娠しない」という場合、「不妊かも…」と思うかもしれません。
実際、日本では不妊を心配した経験のある夫婦は全体の35%(子どものいない夫婦においては55.2%)※1というデータがあり、不妊で悩むことは決して珍しくはありません。また不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は全体の18.2%(子どものいない夫婦においては28.2%)※2で、不妊治療を受ける人は年々増えつつあります。
そこでこちらの記事では、2022年4月に保険適用が開始され、より身近な存在となった不妊治療について紹介します。ぜひ参考にしてください。
※1・2データ参照元:夫婦調査の結果概要:第3章 妊娠・出産をめぐる状況(国立社会保障・人口問題研究所)
目次 [閉じる]
- 1. そもそも不妊とは?
- 2. 不妊の原因とは?
- 加齢により卵子の質も数も大きく低下する
- 不妊の原因は男女で半々
- 3. 不妊を調べるにはどうしたらいい?
- 女性側の検査
- 【一般的な検査】
- 【特殊な検査】
- 男性側の検査
- 4. 不妊治療について
- おもな一般不妊治療の種類
- 【タイミング法】
- 【排卵誘発法】
- 【人工授精】
- おもな生殖補助医療の種類
- 【体外受精】
- 【顕微受精】
- 5. 一般不妊治療から生殖補助医療に切り替えるタイミングとは?
- 6. 保険適用により、不妊治療の負担が軽減
- 保険適用される治療について
- 保険適用の条件について(体外受精・顕微授精)
- 7. 不妊治療をするにあたり気を付けたいこと
- (1)早めに受診しよう
- (2)ストレスとうまく付き合おう
- (3)治療を続ける期限を決めるのもアリ
そもそも不妊とは?
「不妊」とは、妊娠を希望する健康な男女が一定期間避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、妊娠しないことをさします。この一定期間は「1年」とされていますが、年齢が高い場合は妊娠しない期間が1年未満でも、できるだけ早く検査や治療を始めた方がいいと言われています。
不妊の原因とは?
不妊の原因の大きなものとしては加齢があります。女性は35歳を過ぎると急激に自然妊娠する確率が下がり、40歳では約10%、45歳では5%まで低下してしまうのです。
加齢により卵子の質も数も大きく低下する
加齢により卵子の質が低下することが研究により明らかになっています。ただしそのメカニズムは不明で、明確な予防方法がないのが現状です。
一方、卵子の数も年齢とともに減少していきます。卵子は胎生20週くらいで約700万個まで増えますが、出生時にはすでに約200万個まで減少し、その後も月経等で死滅し減り続けます。
※参照記事:年齢が不妊・不育症に与える影響(一般社団法人 日本生殖医学会)
不妊の原因は男女で半々
また年齢以外でも、子宮内膜症などの婦人科の疾患や排卵障害や無月経などで、不妊が引き起こされるケースがあります。そして不妊は女性側だけの問題ではありません。男性も精子が老化するなどといったことが、不妊につながる場合がよくあります。実際に不妊原因の割合は、男女でほぼ半々と言われています。
不妊を調べるにはどうしたらいい?
不妊の可能性がある場合は、まず検査を行います。検査によって不妊の原因を調べ、原因に応じて治療や手術を行っていきます。ただし、中には検査を受けてもはっきりとした原因が分からない場合もあります。
女性側の検査
女性側の検査には、ほとんどの人が受ける一般的な検査と、一部の人のみが受ける特殊な検査があります。検査は不妊を診ている産婦人科・婦人科や不妊治療に特化したクリニックで受けることができます。
【一般的な検査】
①内診・経腟超音波検査
内診台の上で子宮・卵巣を診察し、超音波プローブを腟から挿入して、異常がないかを確認します。
②子宮卵管造影検査
子宮内へ造影剤を注入し、X線を用いて子宮の形や卵管が閉塞していないかをチェックします。
③血液検査
採血し、ホルモン検査や糖尿病など全身疾患に関係する検査を行います。
【特殊な検査】
上記の一般的な検査を受けて何らかの疾患が疑われる場合に行います。
①腹腔鏡検査・子宮鏡検査
腹腔鏡検査とはカメラをいれてお腹の中を観察する手術で、子宮・卵巣など骨盤内臓器の状態を確認できます。
②MRI検査
子宮や卵巣の形態について、詳しく調べることができます。
男性側の検査
男性側の検査は、以下の2つです。不妊症を診ている産婦人科や泌尿器科、不妊治療に特化したクリニックで受けることができます。
①精液検査
精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを調べます。
②泌尿器科的検査
診察・超音波(エコー)検査・内分泌検査(採血)・染色体・遺伝子検査(採血)などが行われ、必要に応じて特殊な検査も受けます。
不妊治療について
不妊治療は、一般不妊治療と生殖補助医療に分けられますが、まず一般不妊治療からスタートし、一般不妊治療で妊娠しない場合には、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療に進んでいきます。不妊治療は始めてすぐに妊娠する場合もあれば、何年も治療を続ける必要がある場合もあります。
おもな一般不妊治療の種類
【タイミング法】
月経周期から排卵日を予測して、性交のタイミングを合わせる治療です。
(おおよその費用)数千円〜2万円程度(※1回あたり・保険適用の場合です。医療機関などにより異なります。)
【排卵誘発法】
内服薬や注射薬により卵巣を刺激して排卵を起こし、妊娠率を上げる方法です。排卵が起こらない・起こりにくい人が実施しますが、人工授精や体外受精と併用することもあります。
(おおよその費用)数千円〜2万円程度(※1回あたり・保険適用の場合です。医療機関などにより異なります。)
【人工授精】
精液を注入器で直接子宮に注入する方法です。精子に問題がある男性不妊症がおもな適応となります。
(おおよその費用)1万5,000円~3万円程度(※1回あたり・保険適用の場合です。医療機関や検査内容などにより異なります。)
おもな生殖補助医療の種類
【体外受精】
精子と卵子を採取した上で体外で受精させ(シャーレ上で受精を促すなど)、子宮に戻して着床を促す治療です。ある程度精子がある場合に対象となります。
(おおよその費用)9万~15万円程度(※1回あたり・保険適用の場合です。医療機関や治療内容などにより異なります。)
【顕微受精】
体外受精のうち、卵子に注射針などで精子を注入するなど人工的な方法で受精させる技術です。精子の数が非常に少ない場合が対象となります。
(おおよその費用)15万~21万円程度(※1回あたり・保険適用の場合です。医療機関などにより異なります。)
一般不妊治療から生殖補助医療に切り替えるタイミングとは?
まず一般不妊治療を行い、妊娠しない場合は生殖補助医療に移行するのが基本的な流れです。ひとつの治療は最長半年と考えて切り替えていくといいでしょう。ただ年齢が高い(35歳以上)・不妊の期間が長い場合などは、早めに生殖補助医療を検討した方がいいこともあります。
保険適用により、不妊治療の負担が軽減
不妊治療は2022年4月より保険適用が開始されました。これにより、それまで保険適用されていなかった一般不妊治療の「人工授精」、生殖補助医療の「体外受精」「顕微授精」などの費用負担が3割で済むようになり、さらには保険適用される診療に限定されていた高額療養費制度※の対象になりました。
※医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月で上限を超えた場合、超えた金額が支給される制度のこと
保険適用される治療について
2022年4月に保険が適用開始されたのは、以下の治療です。
生殖補助医療に関しては、上記にないオプション治療でも健康保険が適用されるものがありますし、先進医療(保険診療の対象に至らない先進的な医療技術)と保険適用される診療を組み合わせることで、先進医療にかかる一部の費用が保険適用される場合があります。
保険適用の条件について(体外受精・顕微授精)
体外受精と顕微授精について保険が適用されるには、以下の条件に当てはまっている必要があります。
なお人工授精に関しては、年齢制限や回数制限はありません。
※不妊治療の保険適用について詳しくはこちら
不妊治療をするにあたり気を付けたいこと
(1)早めに受診しよう
前述したように、加齢とともに卵子の数が減るだけではなくその質も低下し、妊娠しにくくなります。そのため子どもがほしいと思っているのであれば、まずは早めにクリニックを受診し、自分の体のことを知りましょう。なお不妊治療を始める場合、保険適用となるには、原則としてパートナーと2人で説明を受けるよう求められますので、その点も注意しましょう。
(2)ストレスとうまく付き合おう
不妊治療に取り組む中、なかなか思うようにいかず、ストレスをためこんでしまうかもしれません。しかしストレスが多い生活を送っていると、妊娠しやすい体から遠ざかってしまいます。とはいえストレスをなくすのは難しいため、ストレスとうまく付き合っていけるようにしたいものです。
パートナーと日頃からコミュニケーションをとる、不妊治療中のつらいことを共有するだけでも、気持ちがラクになるものです。また不妊治療中の悩みを聞いてもらえたり、不妊治療に関する情報を得られるコミュニティも存在します。カウンセラーに話を聞いてもらうのもおすすめです。自治体にも不妊に関する相談窓口がありますので、利用してみてもいいでしょう。
NPO法人 Fine(不妊に関するセルフサポートグループ)
東京都 不妊・不育ホットライン
(3)治療を続ける期限を決めるのもアリ
不妊治療を始めたのはいいものの、「いつまで続ければいいのか、いつやめればいいか悩む」という声も聞かれます。
そういった場合、たとえば「1年間は不妊治療を続けてみる」といった具合に期限を決めてみるのもいいでしょう。そして1年が経過し、またその時点で今後どうするかをじっくり考えてみてください。
※参照記事
https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa02.html
https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/taiyo-magazine/women/010/index.html
https://www.tokyo-np.co.jp/article/176422
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz6/funin2.html
https://ginzarepro.jp/column/infertility-treatment-cost/
https://www.pref.tochigi.lg.jp/e06/funin/funinnochiryou.html/
https://www.matsumoto-ladies.com/columns/7983/
https://www.nhk.or.jp/sukusuku/articles/article_283/
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa07.html
https://www.ninkatsuka.metro.tokyo.lg.jp/hunin-kensa/