目次 [閉じる]
work style寝る時間が少なすぎて起きても髪が乾いていなかった
――そんな経験を経て28歳で独立。
私、最初のアパレルは手取り12、3万とかだったんですよ。トップセールスだけどインセンティブもなくて残業代もつかない。テーラーの会社に勤めたときも17万円で、後半21万円に上がったんですけど、それでも生活するのが大変で絶対貯金なんてできないじゃないですか。でもお店を作る1年前に交通事故に遭って、その保険金が380万円下りたんですね。その保険金を使ってお店を作ったんですよ、ギャグみたいな話でしょ(笑)。でもやっぱり380万円では工事費だけでも足りなくて、借金まみれみたいな(笑)。
――その足りない分のお金はどうしたんですか?
当時は経営者の知り合いとか話を聞ける人もいないし、母にも起業するのを内緒にしてたんで、お金出してなんて絶対言えない。だから営業活動をしまくりました。もう二度とできんやろうなって思うぐらい。
毎月100万、200万の広告予算がある大手に広告では対抗できないから、例えば交流会とか人に会える機会があったらとにかく行って。朝5時に起きて、6時とか6時半から始まる交流会に行って、お店がオープンする11時までに名刺を集めて、お店戻って、その人たちに連絡をしてアポイントを取る。お店が終わったらまた交流会はしごして名刺を集めて、夜中の12時か1時にお店戻ってきて、そこからスーツのオーダーシートを作って、生地発注して。そしたら朝の3時とか4時になるんです。で、家帰ってきて髪の毛洗って寝るんですけど、寝る時間が少なくて起きてもまだ髪が乾いてないんですよ。だからそれをお団子にしてまた外に出ていくっていう生活をずっとしてました。それまで営業もしたことないから抵抗もあるし、経営者って誰かが頑張れよって言ってくれるわけでもないし、本当は交流会も苦手なんですよ。でも自分でやるって決めたことなので。
――実際に営業の成果はどのくらいあったのでしょうか?
ありがたいことに、アパレルの販売員のときもそうだったんですけど、営業ができたんです。当時、大阪で一番売上を上げてるって言われてる人がいたんですけど、その人がその売上にいくのに7、8年かかったっていうのを聞いたので、私は1年でやろうと思って、実際にやったんですよね。なので、お店を建てて次の月には前の会社の1店舗の月売上を、超えていました。
――売上を上げるコツのようなものはあるんですか?
スーツを売ろうと思って喋ってたというよりも、自分がどう役に立てるだろうっていうのをすごい考えて対峙してたんですよね。たくさん名刺集めて、この間知り合ったこの人とこの人を繋げてあげたら少しでも仕事になるかもっていうことをむちゃくちゃしてました。コツコツ思いを伝えていって、お客さんを獲得していったっていう感じです。
それと、私、100年先まで愛されるブランドを作ろうっていうのを掲げてRe.museをやっているんですね。なので、そういう思いとか自分が何者で何を成そうとしてる人間なのかを知ってもらうっていうことをしました。これから世の中のテクノロジーがどんどん進んでいった先に、人だからこそできることに価値が生まれるだろうなと思っていて。その中で孤独が人を蝕んでいくだろうから、このお店がお客様にとっての居場所になれたら、差別化を図れるんじゃないかなっていうのは、最初からすごく意識してたところですね。
work styleヴィクトリースーツを着るのか、着ないで死ぬのか
――オーダーメイドスーツを買いに来られる方ってどんな方が多いのでしょうか?
最初は経営者の方やトップセールスマンの方だったり、買える力があるお客様が多かったんですよね。当時は特にヒアリングに力を入れていて、なんでスーツを作りたいのか、なんでその目標を達成したいのか、達成したら誰が幸せになって自分は何を得るのかとかを対話しながらスーツを作ってたんです。そうしたら、お客様ご自身が自分の棚卸ができてマインドセットが入るんですね。それでその1着が仕上がると、想いが目に見えるものになる。そうしたら無意識に、適当に買ってきた1万円のスーツ羽織るより、最後の商談決めるときは絶対これ着て行こうってなって、着たら結果が出て、夢を叶えるヴィクトリースーツってお客様の方から言われるようになったのが始まりなんですね。
でも今は10代後半の子から20代の若い子も多いです。60代、70代の人もいるかな。経営者、主婦、個人事業主、起業を目指してる人、普通のサラリーマン、新社会人、大学生…もうめちゃくちゃたくさんの人が作ってくれるようになって。
――それってYouTubeやTikTok などの影響もあるのでしょうか?(勝さんのYouTubeは登録者数47万人、TikTokはフォロワー22万人。数百万回再生されるほどバズっている動画も!)
そうですね。SNSで見てくれた人が、ヴィクトリースーツを着るのが夢だからっていうので来てくれることがすごい増えましたね。私はずっとそれを目指していたんですよ。たとえばシャネルは高いけど、箱を開けたときの感動に歴史とブランドを感じますよね。一瞬流行ったくらいではそうはなれなくて、どれだけの人がそう感じたかでしかなれない。そんなブランドを作るのに何十年かかるんだろうと思ってたのが、今少しずつそういうふうに皆さんが買いに来てくれるようになってる。
――SNSを積極的に活用するようになったきっかけはありますか?
始めたのは2020年のコロナのときだったんですけど、ずっとYouTube向いてるよって言われてて、オファーもいただいてたんですけど…正直面倒くさい気持ちが先に出てしまい抵抗があったんです(笑)。だけど、それって自分の都合であって。私は日本の人に「ヴィクトリースーツを着るのか」「着ないで死ぬのか」の選択を生きてるうちにしてほしいんです。でもそう言いながらどれだけの人がRe.museやヴィクトリースーツを知っているかっていったら、ほとんど知らないわけで、知ってもらうための努力をしてないとも思ったんですね。今の世の中お金をかけなくてもできることがたくさんあるのに、それをやらないっていうのは自分の言い訳でしかない。それと、夢を持って生きることの素晴らしさを発信したいっていう思いもあって、やるからには本気でやろうと。
――発信内容も勇気づけられるような内容が多く、ついつい見てしまいます。
私たちの会社は自信を提供しているんですね。じゃあ自信ってどんな人に必要かって考えたときに、全ての結果を手にしてから欲しいのが自信ではなくて、まだまだ階段を登っていて、誰からも評価をされなくて、でも自分で自分のこと信じていないと始められないっていう人にこそ必要なのが自信であって。
私自身、創業当初心無い言葉をたくさんいただいてきました。敏腕経営者でさえオーダースーツで苦戦して潰れてるのに、二十代のしかも女の子がやめた方がいいっていうのを。だから、誰も自分のことを信じてくれないけど、絶対に消されたくない火を持ってるっていう状態の人にこそ、欲しいのは自信だと思ったんですよ。経営者にだけ必要なものじゃなくて、未来に希望を持ってる人全員に必要なものなんですよね。ちょっと背伸びしてもらわないと価格的には手が届かないんだけど、そうしてでもその未来を手に入れたいと思えるかが自分の覚悟にもなるはずなので。SNSで自分の想いを発信していくようになったのも、そういう背景があるからなんです。